「(歌詞まで覚えちまったじゃねぇか)」



空いた時間を利用し、Youtubeにてある邦楽歌手のPVをひたすら流す。普段は聞かないこの歌手の動画を見ている理由など1つしかなく、それは泉が出演しているからだ。連絡をとらなくなる前に歌手名を聞いておいて良かった、と思ったが、蓋を開けてみるとそこには他の男と一緒にいる泉がいる。いくらそういうもんだとは分かっていても、今の俺にとっては完全に自爆だった。

そもそも、この曲が発売されこうして動画を見られるようになったのは、今よりずっと前の話だ。俺はあの日からしばらく経った後、今まで送られてきた画像に目を通さずに済むように泉からのメールを全て削除した。見たら連絡をとりたくなるに決まってるからだ。だから、この動画は当時の俺にとっては以ての外だった。映像なんて、見れるはずがなかった。



「(結局、何もかも無意味だったがな)」



そして今、月日が全て解決してくれたと思った俺は初めてこれに目を通した。月日が経てば少しは冷静でいられる、そう思っていた。

 でも、違った。

あえて目を通さないでいたこの約1年間は、本当に無意味なものにしか過ぎなかった。今、たまらなく泉に会いたい。声を間近で聞くだけでもいいから、兎に角会いたい。

流れ続ける動画を強制終了し、膝に頭を乗せ抱えるように俯く。忘れようとしていた訳じゃない。でも、この期間だけでも泉に集中せずにいられたら、そんな甘く狡賢い考えを抱いていた。

時々忍足や香月から聞く泉の話題も、本当は気になって仕方ないのに全て軽く受け流していた。泉がいない毎日に慣れるなんて、きっと後にも先にもありえない。こんな情けねぇ俺の事をも受け止めてくれるのか、なんてのは愚問だ。俺はあいつの全てを受け止められるように、あいつもそう思っている。その辺りに不安はない。



「足りねぇよ」



でも、それだけじゃ足りない。近くにいながら泉を感じねぇと何も始まらない。そんな事を想うだけで行動にも口にも出せない。出したくない。どうしようもねぇ考えばっかが胸中を疼く。

馬鹿のひとつ覚えみたいに好きだのなんだのだけで行動していたあの頃には、もう戻れそうにない。
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