「俺達も今空き講なんだよね!良かったら一緒にどっか行こうよ」



うーん、どうしようこの状況。控えめに苦笑して距離を取ろうと試みるものの、この人達に空気を読むという術はないみたいだ。

授業と授業の合間に買い物に来ると、そこには同じ氷帝大だという男の人3人組がいた。最初は軽い感じで話しかけて来たから普通に対応していたけれど、それから流れはこれから遊ぼうという感じになり、かれこれ10分はこんな言い合いをしている。きっと曖昧な返事をするから駄目なんだと思い気を取り直すと、不意に後ろから腕を引っ張られた。



「すまんが先約があるんじゃ、譲ってもらうぜよ」



横目に入った銀髪は、そのまま男の人達の意見も聞かずにスタスタと歩き始めた。勿論腕を掴まれている私も必然的にその場を離れる。後ろからは文句のような声も聞こえるけれど、そんなのを心配するほど私もお人好しではない。



「此処まで来ればええじゃろ」

「ありがとう雅治。あと、久しぶり」

「ん」



しばらく歩いて人気の無い所で立ち止まると、雅治は強張らせていた表情を柔らかくしてくれた。久々の再会がこんな形になっちゃったのがちょっと申し訳ない。他校の皆とは卒業前からずっと会ってないから、数か月ぶりといった所だろうか。ただでさえ大人っぽかったのに、私服になって更にそれに磨きがかかった気がする。



「あそこで買い物してたっちゅー事は、今日は休みか?」

「ううん、授業が2コマ分空いてるだけ。雅治は?」

「サボり」

「成程ね」



なんとも雅治らしい、と言ったらちょっと失礼になるかもしれないから、それには苦笑だけを返しておく。何はともあれお互いこれから時間が余っているのが分かったから、私達はそのままの流れでカフェにでも入る事にした。思わぬ再会に少し浮き足立っているのが、自分でもよく分かった。



***



「そういえば跡部と付き合ったんじゃな。おめでとさん」



久しぶりに会った泉は、えらい綺麗になっとった。どのタイミングでこの話題を出すかは会った時からずっと考えとったが、目の前で「知ってたんだね」と照れ笑いを浮かべとる泉を見ると、どうやらこのタイミングで間違いなかったらしい。



「最初聞いた時は驚いたぜよ」

「誰から聞いたの?」

「ブンがおたくの芥川からメールで。アイツ、メール来た瞬間携帯落としてたなり」

「あはは、びっくりするよね」



勿論びっくり以外の感情も含まれとったけど、それを泉に言うのはブンに悪いから言わん。つーか、俺も人の事言えん。



「でもアイツ知らん間にロス行ったじゃろ」

「私達でも知ったの直前だったからね」

「じゃあ、しばらくは遠距離なんか」

「そうなるよ」



その辺りはナイーブな話題なんか、泉の笑顔が寂しそうなもんに変わった。さっきまでは照れ笑いしとって幸せそうだったんに、やっぱりこんなに泉の表情を変えれるんはあいつだけなんじゃなぁと此処に来て思い知らされる。でもまぁ、あいつなら認めざるを得ない。



「お前さん達なら大丈夫じゃろ」

「皆そう言ってくれて嬉しいよ。何が起こるかは分からないけど」

「そう悲観的になりなさんな」



いくら今まで仲良かったにせよ、付き合いたてで遠くに行かれるのは確かに堪えるだろう。そんな泉を元気づける為に頭を撫でてやれば、次は困ったように笑った。どんな時でも笑おうとする健気な所、ほんっとにかわええのー。見惚れるくらいは許せ、跡部。



「連絡は?」

「メールは毎日してるよ、数は多くないけど。電話も時間が合った時は」

「跡部も意外とマメなんじゃな」

「多分、そう心がけてくれてるんじゃないかな」



サラッと惚気た事に多分自分でも気付いてないんじゃろうが、なんとなく携帯を気にしとる仕草を見るとまだちょっと憎い。この会っとらんかった数か月でだいぶ気持ちの整理はついたつもりだったのに、略奪する気が無いだけええと跡部には割り切ってもらう他なさそうじゃ。



「でも、好きな人の事はなんでも知っておきたいってよく皆言うけど、知りすぎちゃっても駄目だよね」

「跡部に限って泉を心配させるような事があったんか?」

「ううん、ただ私がなんとなく気付いちゃっただけ」

「何に?」

「言葉で表すのは難しいんだけど、なんとなーくね」



とそこでまた泉の表情が変わった。平然を心がけているようで、切なさが言葉の節々や下がった眉から読み取れる。伊達に変装を特技としてないせいか、普通にしとっても人の細かい変化が分かってしまうのは、こういう時はちょっといらんかもしれん。



「景吾の事だもん、分かるよ」



結局その言葉を最後に泉は話題を変えて、話の続きを聞く事は出来んかった。かといってそれを掘り返すなんちゅー野暮な事はしなかったものの、それから最後まで泉の顔が完全に晴れる事は無かった。
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