久々に泉と時間が合った事を嬉しく思いつつ、油断すると緩みそうになる口元を必死に引き締める。

この手にある携帯から泉の声が出てた、そんな事だけでたまらなく嬉しくなる。泉の声を聞くだけで、してるであろう表情が容易に頭に浮かんで来る。此処まで来ると流石に重症だなと自覚した所で、俺の口からは無意識のうちに溜息が出た。



「(対外にするべきだな)」



そして今日も1人の部屋に帰り、部屋着に着替えてから明日の授業の準備をする。窓から見える外の暗さを見て、そろそろ夕食を食いに食堂でも行くかと思い立ったと同時に、次はあいつらの顔が頭に浮かんだ。いつも俺の家でたらふく食っては暴れてたあいつらの事だから、きっとメニューが高校より多い大学の食堂では尚更なんだろう。

そんな事を思い1人で笑いそうになった時、突然携帯の着信音が鳴った。こんなタイミングで誰だと思いつつ着信相手を確認するなり、とうとう俺は笑いを堪えきれなくなり噴き出した。



「何だよ、寂しくなったのか?」

「全くそういう訳ではありません」



相変わらず冗談の1つも通じない日吉は、いつもより更に不機嫌そうな声でそう言った。忍足やジローと連絡を取るのは珍しくないが、こいつから来たのは今回が初めてだろう。だから「何かあったのか」と聞けば、後ろから早速ガヤガヤと賑やかな声が聞こえてきた。



「急に押しかけて来たんですよ、まだ部活は始まったばかりだというのに。どうにかして下さい」

「良いじゃねぇか、休日まで練習見に来てくれる先輩がいるなんて嬉しい事だぞ」

「有難迷惑です」

「おい日吉、誰と電話してんだよー!」



その時すぐ傍で向日の声が聞こえたかと思えば、そいつは嫌がる日吉の声も無視し俺に電話を代わってきた。



「もっしもーし!日吉の彼女とかー!?」

「お前、せめて相手くらい確認してから奪えよ」

「えっ、何跡部!?うわ国際電話とか料金馬鹿高くなるぞ!」



向日が俺の名前を呼んだ事により他の奴らも気付いたのか、電話先の野次馬が更に増える。ガチャガチャとうるさい音に若干耳を遠ざければ、一拍子置いて落ち着いた声が入って来た。



「こいつら興奮しすぎてあかんわ。元気かいな?」

「あぁ。お前らは聞くまでもねぇな」

「あとべー!俺もいるよー!」

「ていうか全員いるけどね」

「跡部さーーん!!」

「鳳、お前はうるさい」



忍足、ジロー、萩之介、鳳と立て続けに言葉をかけられ、またさっきと同じように噴き出すように笑う。



「そっちには慣れたか?まぁお前なら心配なさそうだけどな」

「その通りだ、てめぇの単位の心配だけしてろよ。樺地も元気か」

「ウス!」



宍戸は俺の切り返しに不満げな口を叩いてきたが、対照的に樺地は嬉しそうに返事をした。「お前に心配されるほど馬鹿じゃねぇよ!」と反抗してくる宍戸の声は遠ざかり、また賑やかさが戻ってくる。



「どや?寂しいんちゃう?」

「いーやむしろ静かで清々しいぜ」

「Aー!?俺はあとべいなくて寂しいのにー!」

「ていうか先輩達、それ俺の携帯なんですけど。好き勝手回さないで下さい」

「跡部さーーん!!」

「だから鳳、うるせぇよ」



いい加減収集がつかないと判断したのか、誰かが携帯を取り上げたようで奴らから不満の声があがった。それにも臆さずにお構いなしでいられる奴といえば、あいつくらいしかいないだろう。



「泉も寂しがってるよ」

「…知ってる」



案の定代わった滝の声に、そしてその言葉に浮かれていた気持ちが若干鎮まる。



「安西さんは跡部がいなきゃ不便だって嘆いてる」

「あいつはぶん殴る」

「あはは。まぁ、あんなに寂しそうな顔させるくらいなんだから、充分そっちでは勉強出来てるんでしょ?」

「あぁ。それは間違いねぇ」



それにはきちんと断言すれば、滝も安心したように「そっか」と笑う。そうしてしばし沈黙が流れたかと思うと、後ろからはお菓子がどーのこーのだとか、打ち方がなってないだとか、後輩指導をしてんのかただ遊びに行ってんのかよくわかんねぇ会話が聞こえて来た。そんな愉快なBGMを聞いているうちに、俺達は互いに電話口で笑い始める。



「大丈夫だよ、こっちにいる間は俺達に任せて」

「信頼してるぜ」

「俺達だってちゃんとお前の事待ってるからね。何に関しても、跡部だから俺達は応援したいって思うんだから」



それが何の事を言っているのかは流石に理解出来る。あいつに惚れていたのはほぼ全員に言える事だったのに、今はこうして支えてくれている。自分がその立場だったらそんな対応を出来ているかは分からない。だから勿論感謝はしているのだが、口に出せる程俺はまだ素直じゃなかった。



「はいはい、その意地っ張りも対外にね。特に泉の前では、不安にさせちゃ駄目だよ」

「わかってる」

「じゃあそろそろ切るよ、これ日吉の携帯だし。皆、電話切るよー」



途端にまた騒ぎ始めた声も、さっきまではうるさいだけだったのに今はそうじゃない。よく分からないその歯痒さに耐え切れなくなった俺は、最後に一言残してから電話を切った。



「ありがとう」



反応を聞く前に一方的に切ったから詳しい事は知らないが、顔を合わせて笑っているあいつらが想像付く。その姿にやはり気恥ずかしさを抱えつつも、あいつらとの約束は絶対に破らないと、改めて誓った。さて、飯でも食いに行くか。
 2/3 

bkm main home
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -