寂しさを紛らわせて

「先輩可愛い可愛い可愛い!!もう本当に可愛いです誰にも見せたくないです!」

「連れて来ない方が良かったんじゃねぇかこいつ」

「ウス」

「そんな事無いよー、来てくれてありがとう」



学祭2日目、生徒公開日。鳳の押しに負けて樺地と共に泉先輩のクラス、3年A組に来ると、先輩の姿を目に入れた瞬間こいつは一気に興奮し始めた。分かっていた事ではあるが、実際身に振りかかってみるとその面倒臭さは度を超えていて、いつもは温厚な樺地でさえ鬱陶しそうな顔をしている。跡部部長と芥川先輩は流石に慣れたものだが、安西先輩の顔は鬱陶しさを超えて最早呆れ返っていた。



「もう!鳳うるさいC!」

「こんなに可愛い泉先輩がいけないんです!」

「本当この子重症。あんたも大変ね」

「まぁまぁ。3人共何食べたい?」



俺と樺地が注文を言ってる傍でも鳳は先輩しか見ておらず、いい加減ウザくなって来たのでメニューで思いっきり頭を叩く。こんなので我に返るとは端から期待してない。



「なんや、騒がしい思たらやっぱり3人共来てたんか」

「長太郎、お前の声外まで筒抜けだぞ」

「宍戸さん!お疲れ様です!」

「俺の存在無視かい」



なんでまたこのタイミングで、と思わず頭を抱えそうになったのを、樺地が見越して肩に手を置いて来た。ウチの部活で空気が読めるのはこいつくらいじゃないかと本気で思う。忍足さんと宍戸さんは、違うテーブルから椅子を適当に持ち出すとそのまま俺達の輪に入り、適当に飲み物だけを注文した。



「先輩達も休憩ですか」

「まぁそんな所や、岳人と滝は忙しいみたいで電話に出えへんかった。ちゅーか日吉、いくらなんでも顔に出過ぎやで」

「すみません」

「否定しない所がお前らしいよな」

「お待たせしましたー」



そこで俺達の注文を抱えた泉先輩と跡部部長が来て、片方はにこやかに、片方は無愛想にテーブルを埋めていく。どっちがどっちとは言わずもがなだろう。



「泉ほんま綺麗やなー。宍戸なんてまともに見れなくて視線泳いどるで」

「誰が泳いでんだよ死ね忍足!」

「本当だ、死ね忍足」

「とばっちりやん!」



テンポの良い会話に先輩は笑うが、実際冗談では無いのをこの人は当たり前に分かっていないだろう。無自覚程怖いものは無い。



「向日君とハギは?」

「岳人は電話かけたけど繋がらなくて、萩之介はクラス覗いたら女に囲まれてたぜ」

「滝先輩、何の出店やってるんですか?」

「甘味処やったで。浴衣着とったからよけいやろうな」

「お前らはこんな所で油売ってていいのか」

「流石に跡部みたいに忙しくねえよ。昨日休憩無かったんだろ?」

「まあな」



泉先輩とは違い、自分の人気を誰よりも自覚している跡部部長はしれっとそう言い放つと、また違う所に接客をしに行った。あそこまで堂々としていると逆に清々しい。



「多分景吾が誰よりも働いてるんじゃないかなぁ。やる事ちゃんとやるから凄いよね」

「頑張り屋やからな。そういえば、ウチのクラスの校内ランキング、泉結構入っとるで。暇あったら来てや」

「当たり前ですよ泉先輩が入らないはずがありません!」

「あはは、言い過ぎ。でも興味あるから後で見に行くよ」



そこまで話すとまた店内は混み始めたので、いつまでも引っ付こうとする鳳を軽くかわし泉先輩は離れて行った。校内ランキングとは何の事かと思ったが、そういえば学祭前に忍足先輩のクラスから何回かアンケート用紙を配られた事があった。あの結果か。と、勝手に自分の中で完結させ頼んだ紅茶を飲んでいると、忍足先輩は何やらニヤニヤしながら話しかけて来た。



「ちなみに日吉、俺自分のアンケート集計したで。可愛いと思う人の所にちゃっかり」

「死んで下さい忍足先輩」

「後輩にまでこんな仕打ち?」
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