素直になること

追いかける為に廊下に出ると、早速前方に背中を丸めてしょんぼりと歩いている泉を発見した。普段はあんなに姿勢が良いのに今は何のオーラも感じられなくて、その情けないとも言える背中につい苦笑する。

そうしてすぐに追いつくなり泉はポロポロと泣きながら私を見上げて来たので、とりあえず人がいない場所へという事で私達は屋上に来た。



「何子供みたいに泣いてるの。はい、ハンカチ」

「だって…」

「急にあんな事言われたからびっくりしたんでしょ?」

「うん、私の事なんか知らないって、景吾が1番傍に居てくれてたのに」

「あいつも今絶賛後悔中だから。毎回毎回欲しい言葉だけをあげれる訳じゃないんだよ、あいつも」



びっくりして泣くとか子供か!と思ったのは口には出さないでおく。でも背中をさすってあげればようやく落ち着いて来たのか、段々と嗚咽が消えて行った。



「でも今回は確かに泉にも悪い所があったよ。それはわかる?」

「うん、わかる」

「景吾だって、大事に想ってないと怒らないから」

「うん」

「だからはい、泣き止む!」



私の言葉に泉はコクコクと無言で頷くと、両手でゴシゴシと目を擦りそのまま真っ赤な目を私に向けて来た。可愛い顔が台無しだ。



「香月、トイレ」

「だから子供かってあんたは」



迷子のように私の裾を掴みながら歩き始めた泉を見て、この可愛い姿を今の景吾に見せたら一瞬で機嫌治るんじゃないの、と本気で思った。どうでもいいから早く仲直りしろっつーの。



***



「ちょっと、どういう事」

「俺ちゃんと言ったもん」



時は過ぎ、昼休み。本来ならもうとっくのとうに仲直りしてるはずなのだが、2人からは一向に話し出す雰囲気が感じられない。むしろお互い机の端と端に寄り、最大限に距離を取っている状態だ。

2人の前の席である芥川と香月は、いつもは椅子ごと後ろを向き談笑しつつ昼食を取っているが、何せこの有様だ。後ろを向くタイミングを逃し、ちらちらと目配せをしながら2人を見守っている始末となっている。



「あとべ、ちゃんと謝るって言ったのに」

「泉もよ。こいつら何してんの?」

「安西、抑えて」



コソコソと話す2人は後ろから見ると怪しくて仕方ないだろう。だが彼らもまたそれどころじゃないので、今は何も視界に入っていない状態だ。



「おーい、泉ー!」



その時、ドアから向日の元気な声が聞こえてきた。



「英語のノート全部写してるかー?」

「う、うん!貸す?」

「ごめん、貸してくれ!ってかお前らこの距離何だ?」



そんな用事で泉に会いに来たようだが、この異様な雰囲気に気付くなり向日は真向から原因を問いかけた。空気を読む事には長けていない彼である、当たり前といえば当たり前だが、そこを分かってやれるほどの余裕も今は誰も持ち合わせていない。



「え、何まさか喧嘩かよ!?」

「アーン?誰がそんなくだらねぇ事するか!」

「ちょっと向日あんた空気読め!」

「あとべ!くだらないってあとべが謝らないから終わらないんでしょ!」



啖呵を切ったように話し始めた彼らに向日は最早どん引きしている。それもそのはず、今まで不気味な程静かだったのだ。

しかし。



「くだらないって思ってたの?」



1つの単語に反応した泉の表情は、それはそれは暗かった。



「ずっと色々考えてたけど、それも全部景吾にとってはくだらなかったんだね」



声色はいつもとさほど変わらない。しかし、彼女が今何を思っているかなど聞かなくても一瞬で分かった。



「景吾なんか大嫌い」



静かに放たれた言葉は跡部の心にダイレクトに響いた。勿論マイナスの意味で、だ。再び教室を出て行ってしまった泉の足取りは先程のように冷静を装えておらず、廊下を走る音がしばらく彼らの耳に木霊した。



「ごめん、何か今の俺のせい…っぽい?」

「ううん、あとべのせい」

「今のは言葉選び大失敗。景吾のせいね」

「あ、お、俺教室戻るわー!」



いい加減気まずさに耐えかねたのか、向日はわざとらしく時計を確認し、もうすぐ予鈴が鳴りそうなのを言い訳にその場を後にした。普段からすばしっこいが、こういう時は更にだ。残された3人の空気はそれはそれは重く、特に跡部に至っては顔が死んでいる。



「ショック受けてる所悪いけど、此処で追いかけなかったらマジで神経疑う」

「早く行っておいであとべ!」

「あ、あぁ」



大嫌いと言われたのがよほど答えたのか、素直に行動に移したもののショックは隠せていない。むしろ全身から滲み出ている。



「あんだけお互いの事しか考えてないのに馬鹿か」

「俺達偉いねー」
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