言葉とは裏腹に

「おはよー」



あれから約1週間が過ぎて、私達にはようやく平穏が戻った。最後に来たあの手紙を香月達に見せたらどこか腑に落ちてない感じだったけど、お互いがこれ以上関わることを望んでいないから、とりあえずは解決という方向で事はまとまった。ちなみに西野さんはつい先日退学届を出して、学校側も正式に受理したらしい。



「手紙入ってた?」

「そうだねえ」

「手のひらひっくり返したように態度変わったな」

「いじめられるよりはEけどなんかムカつくC」

「まぁまぁ、これくらいなら全然平気だよ。好意的なものばかりだし」



私の生活はというと、やっぱり大幅に変わった事と言えば周りの意識に限る。他は特に変わってないけど、1番私自身に影響があるのがそれだから何とも言えない。

毎朝必ず靴箱に入ってる手紙、無意味な声掛け、盗撮。盗撮と言ってもそんな質の悪いものじゃなくて、登校中に横から撮られたりする程度だからまだマシなものの、それでも良い気はしない。でもこれも全ては私が原因だ。慣れるように極力頑張ろう。



「あとべー、今日のLHR何やるの?」

「確か研修旅行についてだったはずだが」

「そっか、この季節一気に行事来るんだもんね」

「その代わり研修旅行、学祭が終わったら何もねぇけどな。あとは卒業だけだ」



氷帝はエスカレーター式だから、外部受験を受ける人はほんの一握りしかいない。その一握りの人からしたら研修旅行なんて行ってられないので、中には行かない人もいるみたいだ。確かに研修旅行は普通2年で行くものだし、特殊すぎるよこの学校。別名思い出作り旅行と言われてるだけはある。



「とにかく今は研修旅行が先だCー!俺達同じ班ね!」

「言われなくてもわかってるわよ」

「楽しみだね。沖縄だっけ?」

「去年は海外だったけど今年は変えたみたいね」

「ちゅら海水族館行くんだー!」

「わかったから暴れるな」



あっという間に明るくなった雰囲気に思わず頬が緩む。行事ラッシュ、堪能しちゃいますか!



***



「あれ、日吉君だ」

「こんにちは」



昼飯を早めに食べ終え図書室に足を運ぶと、そこには偶然泉先輩もいた。俺が持っている返却図書に目を向けるなり自分の好きな作家について話し始めて、その目の輝きから見てよほど読書が好きらしい。



「あ、そういえば研修旅行のお土産何がいい?」

「先輩が選んだものなら何でも」

「わぁお。さらっとドキッとする事言うね日吉君」

「そうですか?」

「きゃー悪い顔」



そこで話は唐突に変えられる。そうか、確か3年はこれから研修旅行があるんだったか。テンポの良い相槌を寄越して来る先輩はそれはそれは楽しそうだが、どうせこの言葉も真剣に受け止められてないんだろう。なんて今更不貞腐れる訳にもいかないので、平然を装って再び口を開く。



「泉先輩、大丈夫ですか?」



いくらなんでも話の切り出し方が下手糞すぎただろうか。しかし先輩も先輩で主語を言わずとも何を問いかけてるのか分かったらしく瞬時に顔を強張らせた、かと思いきや直後にまたいつもの柔らかい笑みを向けられる。



「大丈夫、皆いてくれるし。正直あの時あぁしておけば良かったとか後悔する事もあるけど。大丈夫」



嘘を言っているようには見えないが、不安が全く無いようにも見えない。



「何も傍にいるのは跡部部長だけじゃありません。俺にも出来る事があったら言って下さい」



だからどうしてもその不安を拭いたくてつい口から出た言葉は、あの人達には到底聞かせたくない歯痒いものだった。自覚はしているが、止め方なんて知るか。半ば自棄のような気持ちで返事を待っていると、案の定一度は驚いたように目を見開いたが、次第にそれは嬉しそうな表情へ変わって行く(自惚れでは無い)。



「ありがとう。今日の日吉君は何かきゅんとする所突いてくるなぁ」

「…そうですか」



あまりの鈍感さに流石に何とも言えない気持ちになりつつも、まぁ今はこの距離で良いかと無理矢理自分を満足させ、俺達はそのまま図書室を後にした。この笑顔が消えなければ、別に何でもいい。そう本気思ってしまう辺り、もしかしたら鳳を馬鹿に出来る立場にいないのかもしれない。
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