失いたくないもの

あれから噂は光の速さで広まって、勿論先生方の耳にも入った。氷帝は芸能活動は申請書を出せばしても良いみたいだけど、今まで出さないで偽ってた訳だから、それについてはやっぱり怒られた。皆の混乱も招いちゃったんだし、当たり前といえばそうなる。嘘をついていたのは紛れもなく私で、責任も全部私にある。

その混乱を少しでも防ぐため、とりあえず私は学校から連絡来るまで自宅謹慎という形になった。退学処分にはならないらしい。でも、実際は自主退学するしか道はないと思う。真実がバレてしまった以上私だけが頑張ってどうにかなる問題でもないし、香月や景吾達皆に迷惑をかけるのはわかり切っている。ありもしない悪い噂だってきっと絶えない。私だけならまだしも、皆が言われるのなんて到底我慢出来なかった。

そんな風にマイナス思考を頭の中で巡らせていた時、不意に携帯が鳴った。



「…そうだった」



メールの差出人は北野さんで、明後日の撮影時間が早まるという連絡だった。

そうだ、どれだけ私に感情の変化があっても仕事は仕事。休むことなんてできないし、しない。仕事には責任を持つって決めたんだ。

とはいいつつも気だるさは抜けない。それでも私は、明後日の撮影に向けてちゃんとストレッチとマッサージを行った。

まだ、頑張れるかな。



***



「もう全員消えればいいのに」

「ヤケになってんじゃねぇよ」



泉のいない教室。でも、教室は泉の話題で絶えない。居心地が悪いからというよりも、単にその話題を聞きたくない私と景吾は屋上に来た。芥川は学校自体来てない。そんなアイツの事もそりゃ心配だけど、正直人の心配をしていられるほど私自身に余裕がない。それは景吾も同じで、口から出る言葉にはいつもの威厳のいの字も無かった。



「どうなんの、これから」

「学校側が退学にする事はまずねぇから、後はアイツ次第としか言いようがねぇよ」

「そっか」

「結局俺らは見守る事しかできねぇ」

「何それ情けな」



本当にな。そう自嘲の笑みを浮かべる景吾を見て、こんな姿を他の奴らが見たら頭がおかしくなったんじゃないかと本気で疑うだろうなぁ、と思った。私だって本当は指差して笑ってやりたいわ。

でも今はただ、泉にとって何が1番良い選択なのか私達がわかるはずもなくて、こんな風に足掻く事しか出来ないっていうのが、兎に角悔しくて堪らなかった。
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