少しの予感

「はーい!今日はこれから体育祭の種目別選手を決めまーす!」



猛暑の日々は過ぎ、秋に向けての準備をしている時期、8月下旬。月曜日のLHRで、先生は体育祭の議題を持ちかけてきた。



「今年も取るわよー!MVP!」

「そんなのあるの?」

「コイツは去年バスケの試合でダンクかましまくって女子部門のMVPに選ばれたんだよ」

「ちなみに男子はアクロバティックバレーを華麗にこなしてたがっくんだよー!」



俄然張り切っている香月につられて、珍しく起きてるジローもきゃっきゃと騒ぎ始める。そんな感じなら去年はきっと楽しかったんだろうなぁ、今年も楽しくやりたいなぁと1人ぼーっと考えてみる。



「でもアンタってほんと不利よね。運動だってやれば全然できるのに、眼鏡とか怪我に気遣わなくちゃいけないんだもん」

「それもそうだな」

「思いっ切り体動かせないもんねー」

「まぁ、今に始まった事じゃ無いからね」



3人の言葉にそう苦笑して答えたものの、確かにやっぱり少し寂しい気持ちはある。また来年も、という訳にはいかないし、どうせなら全力でやりたかったなーなんて。とちょっとだけブルーに入っていると香月が「アンタの分まで私が暴れるから!」と肩に手を置いて来てくれたので、単純だけどそれで納得しちゃう事にした。

そうして回って来たプリントに目を通す。女子の種目はバレー、バスケ、卓球、ソフトテニスの4つで、競技には最低1つ、最高3つまで参加できる。私はバスケだけだけど、運動神経が女子で校内1を争うほどの香月は、テニス以外の全てに参加する事が満場一致で決定した。



「香月の勇姿、楽しみにしてるよ」

「MVP取ったらチーズケーキ作ってね!」

「Aー!俺もー!」

「良いよー。景吾も食べたい?」

「仕方ねえからな」

「照れんなってー」

「素直じゃないなー」

「うるせえ黙れ」



からかう2人に便乗して私も肘をぐいぐいと突いてみれば、結構本気で恥ずかしいのかちょっと顔を赤くしながら私達を振り切った。新鮮な反応だからもう少し楽しみたい気もあるけどこの辺にしておこう、と大人しく手を膝に置く。



「冗談だよ、格好良い所見せてね」

「…しっかり見ておけよ」



それから黒板には着々と名前が書かれていき、比例して私の気持ちも高まっていった。体育祭、どうなるかなぁ。



***



「泉は種目何にしたんだ?」



どのクラスもLHRは体育祭が議題だったので、昼休みの私達の会話も当たり前にそれが中心となった。特に質問をしてきた向日君は凄くウキウキしてて、心の中で今年もMVP頑張れーと祈っておく。



「バスケだけだよ」

「そんな激しい競技やって大丈夫なん?」

「私が動けない分香月が暴れてくれるから」



侑士の言葉にガッツポーズをしてみせた香月。なんて頼もしい!



「去年の安西は凄まじかったぜ」

「宍戸さん、口開けて見てましたもんね!」

「間抜け面でしたよ」

「それを言うんじゃねぇ」



そういえばLHRの後景吾から聞いた話、香月は長身で美人ってだけでも目立つのに、ダンクとか格好良すぎる事までしちゃったからそれ以降女子のファンが急増したらしい。当時今よりもずっと冷めてた香月はそういうの全く相手にしてなかったみたいだけど、と話が脱線した。

「今年も見物だな!」と相変わらずはしゃいでいる向日君の言葉に私も頷く。香月の活躍は本当に楽しみだし、ていうかむしろ見てるだけでもいいくらいだもん。



「貴方の活躍ぶりも見物ですが」

「私運動そんな出来ないよ」

「どんなボケをかましてくれるのか期待してますよ」

「そっち?」



最近毒舌に磨きがかかってる日吉君にそんな事を言われ、思わず口を尖らせる。こんな顔をすれば更ににやりと不適そうに笑って、先輩の威厳まるでゼロだなぁと自分で苦笑した。



「先輩の応援は俺が全力でしますから!応えて下さいね絶対ですよ!」

「普通に考えて競技の邪魔だC」



横から飛び付いて来た鳳君の対応はもう皆お手の物だ。ジローが呆れるなんて相当だよ鳳君、という心の声は口に出さず、私は話に夢中であまり食べれていなかったお弁当に意識を集中させる事にした。
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