合宿終了!

鳥のさえずりで目が覚めるなんて、どれだけ聴覚が敏感になってるんだろう。そんな朝から冷静な事を考えながら、そのまま二度寝はせず私はベッドから出た。

とはいうものの、時刻はまだ5時過ぎ。今日の朝食の用意は宿舎の方でやってくれるらしいからマネージャーは何もやる事がない。こんな時間だから勿論朋と桜乃はまだ寝てるので、私は暇だから椅子に腰掛けてカーテンの隙間から外の景色を眺めてみる事にした。

流石田舎というべきか、空気が澄んでるのが見ただけでわかる綺麗な景色が視界いっぱいに広がり、体が浄化されていくような気分になる。



「…ん?」



そんな風に外の景色に見入っていると、突如私の耳に控えめなノックの音が入った。こんな朝早くから誰だろう、と不思議に思いつつもドアを開ける。

するとそこには、通常ではありえない人物がとても眠たそうに目をこすりながら立っていた。



「ジロー!?」

「んぅー…」

「ど、どうしたの?何か悪いものでも食べた?」

「食べてないCー…」

「じゃあ何でこんなに朝早く起きてるの?」



私がそう問いかけると、ジローはヘラッとした顔で笑った。



「なんかね、泉に会いたくなったー」

「あ、そうなの…」



マイペースを極めているジローに、心配で強張っていた肩がガクンと下がるのを感じる。そうだ、ジローはこういう人だった。



「でも女の子の部屋にいたら怒られるからあとべの部屋行こー?」

「いくら景吾でもまだ寝てるんじゃないかな?」

「俺達も一緒に寝れば良いCー行こ行こー」



え!?と驚きを全面に出すもの結局ジローのペースに私はまんまと巻き込まれ、そのまま腕を引っ張られ景吾の部屋まで連行された。朝から何なんでしょう。



***



「朝っぱらから何なんだよお前らは…」

「えへへー」

「決して私の意志で来た訳ではないよ」



部屋に行くと景吾は案の定まだ寝ていて、ジローが悪戯しようと近付いた時にパッと起きた。寝てても気配を読み取るなんて流石、なんて感心している場合じゃなくって。



「ねみぃ…まだ5時過ぎじゃねぇか」

「たまには早起きー…でも、あとべと泉の顔見たら眠くなってきちゃったー…」

「どういう現象!?」

「だからおやすみー」



私と景吾が困惑しているにも関わらず、なんとジローは自分が事の発端者の癖に、景吾のベッドを当たり前のように乗っ取ってそのまま眠りについてしまった。流石にあんまりだ。隣を見れば景吾も唖然としてて、私達はしばらく無言でジローの寝顔を見ていたけれど、次第になんだかおかしくなって来て最後には私達の控えめに笑う声が響いた。



「これでもう寝れなくなっちゃったね」

「お前らが来た時点で二度寝できねぇ事は確信してたけどな」

「あ、やっぱり?」



うずくまって寝ているジローに布団をかけ直し、私達は窓の近くのソファに移動する。



「どうだったよ、この1週間は」

「ん?」



そうして自室でもしていたように窓の外を見ていると、不意に景吾から話しかけられた。同時に紅茶も差し出してくれたので、お礼を言って受け取る。うわー景吾が紅茶淹れてる姿なんて貴重!見ておけばよかった!と、話がずれたところで軌道修正。



「この1週間は」

「あぁ」

「…ちょっと言葉にするには勿体無いかも」

「そうか」

「うん。だから凄い離れるのが名残惜しい」



馬鹿野郎、という言葉と共に鼻で軽く笑われ、小突かれたおでこを両手で抑える。酷い。



「すぐ会える距離だろーがよ」

「そうだけどさ、中々全員で集まれる事ってないでしょ?この合宿に来た人皆がいたから楽しかった訳で、誰1人として欠けてちゃ何か物足りなかったっていうか」

「…ほんっと夢中になると口数多くなるなお前」

「茶々入れないで」



自分でもなんでこんな熱心になってるのかわかんないんだから。そんな気持ちを紛らわせる為に、紅茶を飲んで一息吐く。



「とりあえず、この合宿に参加出来て良かったと思う。1週間お役に立てましたでしょうか?部長」

「…若干立ち過ぎたくらいだな。ご苦労だった」



そこで沈黙が流れる。

甘い紅茶の香りが部屋中に充満してる上に、隣ではジローが気持ちよさそうに眠っていて、その雰囲気に流されるように私もいつのまにか眠りについていた。眠りに落ちる直前に、ありがとう、という優しい声色の言葉が聞こえた。
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