5日目

「起ーきーてー!」

「んにゃー…だいごろぉー…」

「私そんなたくましい名前じゃないんだけどなー」



もはや恒例になりつつあるこのハプニングには、流石に慣れというものが生じてきて最早動揺すらしない。そんな年頃の女子としては致命的な感情を抱きつつ、腰にまとわりついてくる菊丸君の腕をバシバシと叩く。



「菊丸うるせぇよ…って、はぁっ!?」

「誤解だよ宍戸君」

「…だよな」



そんな現場をちょうど部屋に入って来た宍戸君に目撃されてしまった。一瞬焦ったものの、宍戸君が理解ある人で良かったって心底安心する。



「ありがと宍戸君!それとおはよう、今日も1日頑張ろうね」

「おう、お前もマネ業頑張れよ」



そうして宍戸君のおかげで菊丸君から解放された所で、他のメンバーを起こしに行くために私はそこを出た。出てすぐの廊下では、既に準備万端のバネさんと柳生君に遭遇し、その爽やかさに眩しそうに目を細めてみれば2人は柔らかく笑った。皆が皆これくらい朝が強ければいいんだなぁ、まぁ無理な話か。



「朝はそんなに弱くねぇからな」

「そうですね、私も目覚めは良い方です」

「それ、是非この子に見習わせてあげてー」



そう言いながら、目の前の部屋に視線を移す。



「…あぁ、財前か」

「でも彼は1人で起きれることは起きれるようですよ。凄く寝ぼけていますが」

「だから起こしに行くほどでも無いと思うぜ?」

「んー、そっか。じゃああっち側行って来る」



部屋の主を思い出すなり2人は眉を下げて目を合わせたけれど、なんでもそういうことらしいので此処は2人の言葉を信じて飛ばすことにする。ちなみにあっち側というのは、トイレの向こう側にある部屋のことだ。そこを起こせば全員起床となる。



「光君起きなかったらバネさん頼むよ!きっと柳生君じゃ光君は手におえなさそうだから!」

「頼みましたよ」

「俺かよ!」



不満そうなバネさんを横目にてくてくと歩き始める。すぐに目的の部屋の前まで辿り着くと、1番手前の部屋から人が出てきた。



「やぁ泉、おはよう」

「あ、ハギ。おはよう、やっぱりハギは寝坊なんかしないよね」



出てきたのはハギで、彼は私を見るなりこれまた爽やかに話しかけてきてくれた。やっぱり眩しいなー。



「朝はいつも起きたら読書をしてるからね」

「読書をしたいが為に早起きしてるの?」

「体がそう言ってるから自然に起きれるのかもしれないな」

「すごーい…」



私には朝の寝ぼけた状態であの小さい文字を読むのは到底不可能だ。やっぱり頭の作りからして違うのかな、と勝手に思い、勝手に劣等感。気を取り直そう。



「それじゃあ、問題児達を起こしてくるね」

「うん、頑張って」



ここのフロアでいうと、強敵なのはリョーマと切原君だ。剣ちゃんは優秀な六角だから大丈夫だろうけど、蔵ノ介は…狸寝入りしてそうだな。彼の性格なら充分に有り得る。でも部屋からは物音1つ聞こえないし、やっぱり行くべき?…やめた、先に手間が1番かかりそうなリョーマの部屋にしよう。

そうして静かに入ってみると、リョーマは案の定爆睡してるのは勿論、ベッドから足がずり落ちていた。



「こんな体勢で寝てたら寝違えちゃうよー起きてー!」

「んー…」



眉を顰めて体をよじらせるリョーマを見て、不覚にも少し母性本能がくすぐられる。いっつも生意気なことばっかり言ってくるからこの感じは結構レアだ。でも、ここで負けるわけにはいかない。

最終手段として、いくら呼びかけても起き上がらないリョーマに私はふう、と耳に息をふきかけてみた。いつだか優兄にこれやったら凄い勢いで飛び起きたからやってみたんだけど、見事に効果てき面だ。うわぁ!?とこれまた彼らしくない叫び声が上がり、思わず満足げに微笑む。



「さ、目覚めたところでちゃんと用意して別館の食堂に来るんだよ」



強敵1人が起きたので、次は切原君だ。今ので少し自信が出た私は、意気揚々と彼の部屋に足先を向けた。



「…今のはズルイだろ」



そして辿り着いた切原君の部屋。…入った瞬間、思わず閉めそうになったのは内緒です。



「ぐーーー…」

「完璧に落ちてるし」



切原君はさっきのリョーマからまたグレードアップして、完璧に床に体が落下していた。それでも幸せそうに寝てるあたりがなんとも彼らしい。それにしてもよくこれで寝れるなと半ば感心しつつ、切原君起きてー、と言いながら部屋の中に足を踏み入れた、その直後。



「いってぇ!?…え?」

「…申し訳ない」



私が引っ張られて胸の中に収められたことは何度かあったけど、これはどうすればいいんだろう。そもそもパワーアンクルがこんなところに落ちてるっておかしくない?私も私でなんで引っかかった?なんていう数々の言い訳はおいといて、とりあえず、切原君の上にダイブしてしまったというこの状況をどうしようと考える。



「ホンマドジやなぁ」



とりあえず退かなきゃと思い焦っていると、ふいにそんな声が振って来た。声の方向に従って後ろを振り向けばそこには蔵ノ介がいて、私の焦りは更に度を増していく。



「終始見てたでー。起こしにきてくれるかな思て狸寝入りしとったのに来ないんやもん」

「そうだと思ったから行かなかったんですー」

「あ、あああああの」

「あ、ご、ごめん切原君!」



蔵ノ介との言い合いに夢中で、思わず自分が置かれている状況を忘れていた。体のバネを使って勢いよくそこから離れ、ついでに両手で切原君を引っ張り起こす。



「迷惑な起こし方しちゃってごめんね。朝だから起きましょう!」

「…ッス」

「朝からこないなことされたら目覚めバッチリやろ?」

「当たり前ッスよ」



自分の失態に恥を感じ逃げ出したくなった私は、念のため剣ちゃんの様子も見に行くという名目で急いで切原君の部屋から出た。あー恥ずかしかった。次からはちゃんと足元も見よう。



「顔真っ赤やで?」

「ついでに心臓もバクバクなんッスけどどうしてくれるんですか」

「俺に聞かれても困るわー」



***



「5日目となると体も疲れて来ますねー」

「私ですら筋肉痛なんだから皆なんてもっとだよね」



案の定ちゃんと起きていた剣ちゃんと、そのまま一緒に談笑しながら食堂に向かう。

ちなみに朝食は青学1年ズが作ってくれている。皆は、私が朝皆を起こしていることを知って、「夕食もほとんどやってもらってるから朝食は任せて下さい」と申告してくれたのだ。そのおかげで今もこうやってのんびりできている。正直夕食だってレシピ本の真似だし、そんな手際がいいわけじゃないから凄く悪いんだけど、ここはお言葉に甘えることにしたのだ。



「わぁ、美味しそう!」

「今日は和食でーすっ」



それに、1年ながらも凄く頑張ってくれてるからその成長を見届けたい。なんていう先輩面は流石に鬱陶しいだろうか。

いただきます!という全員分の声が揃ったところで、私も大根の味噌汁に口をつける。さて、今日も騒がしい1日が始まります。
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