4日目

時刻は起床時間の6時半を回っており、カーテンの僅かな隙間から差し込む太陽は今日も強そうだ。これはドリンクを作る量も最高記録を更新するか、とまで考えたところで、いやいやそんな場合じゃないと心の中でノリツッコミをする。



「あのー、寝ぼけてるの?」

「うーん、そうかも?」



だから、何でこうなるの。

寝ぼすけさん達を起こす為に部屋を回っていた私は、念の為全室通りかかって物音1つ聞こえない部屋は中に入って確認する事にしていた。それで、サエの部屋が無音だったから入ってベッドに近付いたらこのザマだ。まるで抱き枕のように体全部を抱えられ、昨日の鳳君よりも酷いんじゃないかと眉を顰める。



「本当に抱き心地いいんだね」

「誰情報ですか」



問いかけた質問は熱くスルーされて、それはそれは気持ち良さそうに私の頭を撫でているサエ。人の気も知らないで悠長だな、と複雑な気持ちになる。



「堪能してくれてるとこ悪いけど、もう6時半だよ」

「仕方ないなぁ」

「拗ねないでよ」



結構力を入れてバシバシと胸板を叩けば、サエは珍しく不貞腐れたような表情で離れて行った。六角の中では剣ちゃんを支えているお兄さん的な役割だと思っていたから、この顔は中々レアだ。でもそれとこれとは別で、面倒臭いものは面倒臭い。



「泉は行かないの?」

「まだ全室確認してないからね。用意したら?」

「そうするよ」

「って何で私がいる前で脱ぐの…それじゃ後でね」



堂々と私の目の前で服を脱ぎ始めたサエに、私は溜息を吐きながらツッコんでからようやく部屋を抜け出した。

その時、そんな私の後姿を見てサエが1人楽しそうに笑っていた事なんて、私が知る訳がない。



***



あれからの部屋回りも大変だった。小春とユウジ君は何故か同じ部屋で一緒に寝ていて朝から惚気話を聞かされるわ、ダビデ君のダジャレも延々と聞かされるわ。氷帝に学校全体で個性が勝る所はなくても、個別で見たら沢山いるかも、と思った。



「朝から溜息か。幸せが逃げるぞ」

「…柳君」



そこに、後ろから気配もなく来たのは柳君だ。若干ビックリした。とりあえずお互いおはよう、と挨拶を交わしてから、私の表情を見て彼は苦笑する。



「疲れてるのか?」

「正直ね。まだまだ折り返し地点だから弱音吐いてられないけど」

「流石だな。だが無理はするなよ」

「しても気付かれちゃうからね」

「…跡部か」



すぐに名前を当ててきた柳君に、言葉では何も言わないで笑顔だけ返す。

実際、もう皆には馴染んでるけどこっちに越してきてからまだ半年も経ってない。それでも景吾は私の事を凄くわかってくれてるから、やっぱり人を見る力があるんだなぁってつくづく思う。



「…跡部だけじゃないがな」

「ん?」

「いや、何でもない。そろそろ朝食の時間だ」

「あ、うん。それじゃまたね」



そしてそれからどんどん皆起きて来て(ジローが寝ぼけてパンツのままだったから一端戻らせたけど)、間もなくして朝食の時間が始まった。
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