変化のとき

「あのマネージャー、鈍臭いかと思ってたけどめっちゃ手際良いッスね」

「っつーかなんであんな格好してんだ?」



そこには絶対に触れてほしくないんですけど。というか、私の話をするなら聞こえないように話して頂きたいんですけど。

何はともあれ、練習試合のみの臨時マネージャー、早速壁にぶち当たりつつもなんとか頑張ってます。



***



「泉」

「あ、景吾」



ドリンクを一通り準備し終わり次は洗濯にかかろうと思った瞬間、後ろから景吾が話しかけてきた。いつも涼しげなその顔には結構な量の汗が滲み出ていて、充分に練習出来ていることが窺える。



「はかどってるか?」

「慣れないけど何とか大丈夫」

「そうか」



わざわざ気にかけてくれた景吾に簡潔に返事をして、まだ沢山ある洗濯の山を崩す為作業を再開する。この洗剤凄い良い匂いだなぁ、景吾が特注したのかなぁ、そういえばウチの洗剤ももうすぐなくなるなぁ、とかあまり関係無い事を考えていると、ふとまだ景吾が近くに立っている事に気付いた。だから首を傾げて、行かないの?と問いかける。



「アーン?」

「いや、練習行かないのかなって」

「…何でもねぇよ。今行く」



なんか妙に余所余所しい、なんだろ。頭の中に疑問符を散りばめながら垂れてきた汗を拭うと、ギラギラとした陽射しが私の顔を直撃した。帽子を被ってこなかったのは失敗だったと今更後悔。

そうすると、あれ、もしかして?とふいに自分の中で辻褄が合った。だから歩き出した景吾を呼び止めて、振り向いた不機嫌な顔にまた疑問をぶつけてみる。



「心配してくれたの?」



自分で言うのも気が引けたけど、今日はいつもに比べて陽射しが凄く強くて、それこそ皆には及ばないもののマネージャーだってそれなりの体力を使う。でも私が仕事をしているのは部室裏だから、具合が悪くなったりしても誰も見つけ出す事ができない。

ここまで考えるのは自意識過剰な気もするけど、景吾ならそんな理由でも不思議じゃないかなーと思って、私は笑顔で返事を待つ。



「別に、そんなんじゃねぇよ」



すると景吾は顔を僅かに赤くして、そっぽを向きながら言い返してきた。わかりやすいなぁ。



「ありがとうね」

「…無理すんなよ」

「大丈夫だよ」



貴重な可愛い面を見れたからにはもうちょっとからかいたいけど、いつまでもこんな事で足止めさせる訳にはいかない。だから景吾に練習に戻るよう促せば、今度こそコートに駆けて行った。ありがとうね、景吾。さて、じゃあ私もまた洗濯始めますか。



***



「朝倉ー」

「はい、ドリンクとタオル」

「サンキュー」

「俺も下さい」

「うん」



1番最初に休憩を取り始めたブン太さんと赤也さんを筆頭に、次々と来る皆に用意していたドリンクとタオルを配布していく。



「泉ー!」

「はいはい、早く持っていってねー」

「いちいち先輩に抱きつかないで下さい」



飛びかかってくる侑士を引き剥がしたのは日吉君で、それでもまだ抱きついて来ようするのだから諦めが悪い。結局最終的に、日吉君が結構な力で彼の首根っこを掴む事で私の身は解放された。

とその時、一角から視線を感じたからそっちを見てみると、そこにはあからさまになんで?って顔をしているブン太さんと赤也さんの姿があった。あまりに分かりやすすぎる表情に若干苦笑するものの、最初に言った通り仕方ない事なので割り切る。



「じゃあ、私まだ仕事あるから。2人も頑張ってね」



その言葉と一緒に侑士と日吉君に別れを告げる。部室に戻る途中、横目にブン太さんと赤也さんが侑士に駆け寄っていく姿が見えた。何を問いただすかなんて大体予想ついてるけど、それでもなんとなく残念な気持ちを胸に残しつつ、私は顔を逸らして再び歩き出した。
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