忠告の意味は皆無

天候に恵まれたある夏の日。



「準備はいいか」



今日はいよいよ氷帝と立海の練習試合の日だ。場所は立海で行われるらしく、そこまでは景吾の自家用バスで行くことになっている。



「お願いですからバレないようにして下さい」

「うん、頑張る」



ちなみに準レギュラーもいるらしく、私は日吉君からそんな忠告を受けた。氷帝テニス部の頂点達が乗っているこのバスに私がいるというのはやはりとんでもなく場違いで、少々肩身が狭い。



「泉もいるなんてマジうれC!」

「やる気倍増やな」

「それは嬉しいデスネー」

「棒読みだっつーの」



そんな時に話しかけてくれた侑士の言葉に一応は返事をするけど、その棒読み加減を向日君に突っ込まれてしまった。そこは見逃して欲しかったー。



「先輩っ!俺頑張ります!」

「応援してるよー」



私が何か言う度に一喜一憂している鳳君を見て、景吾と日吉君は本気で呆れていた。まぁまぁ、可愛いもんだよね。

まるで遠足気分な皆は落ち着きがなく、そんな状況の中私達を乗せたバスは出発した。



***



バス内で騒ぎ続ける奴らを見て思わず軽く舌打ちをする。どいつもこいつも泉が絡むと途端に餓鬼のように騒ぎ始めて、最初は止めようと試みたがもう此処まで来ると放置せざるを得ない。



「宍戸?」

「あ?」

「泉可愛いね」

「うるせぇ黙れ!」



特に最近になって急に意識し始めた宍戸の分かりやすさは群を抜いて酷い。萩之介も萩之介で、最初は傍観を決め込んでいた癖に今じゃこの有様だ。からかわれたくないならそんな反応すんなよ、というアドバイスは本人は言ってやらない。



「泉ー!トランプしよ!」

「うん、いいよ」



俺がひたすら呆れている傍らで、ジローは持参したトランプを広げ出した。気分は完全に遠足だ。



「俺も俺も!」

「泉がやるなら俺もやるで」

「貴方はやらなくていいです」

「あっ俺もやります!泉先輩やり方教えましょうか?それとも俺とペア組みます?ですよねー組みますよねー!」

「え、あの」

「俺が主催者なんだから俺が教えるんだCー」

「そんな事別に決まってないじゃないですか」

「はいはいはいはい」



急にしょうもない事で喧嘩を始めたジローと鳳を、泉が間に割り入って苦笑いで止める。すっかり見慣れつつあるこの光景は、きっとこの先更に度合いを増していくに違いない。そんな予想を勝手に立てて勝手に溜息を吐いた俺も、多分相当やられているのだろう。



「宍戸が教えてあげればいいんじゃない?」

「だから黙れよこの野郎!」



宍戸の馬鹿はもう知らん。



「先輩も鳳も黙れ」

「A、何タメ語?偉くなったねーひよし」



どいつもこいつもキャラ変わってんだよ、お前ら。そんな俺の苦悩に気付いているのは樺地だけで、ウス、という言葉と共に肩に置かれた手は妙に重く感じた。



***



結局日吉君、鳳君、ジローが延々と口喧嘩を続けていたせいでトランプは出来なくて、私は3人以外のメンバーと雑談を交わしていた。その中でも侑士が変態発言をしてくるから周りが怒っちゃったりして、ちょっと雑談というには賑やか過ぎたように思える。



「大丈夫か?」

「んー…」

「魂抜けてるぜ」



景吾が呆れ果ててるのには途中から気付いていたけれど、私と同じでどうする事も出来なかったんだろう。その代わりに今はゆっくり頭を撫でてくれていて、体がぐんぐんと癒されていくのを感じる。



「朝倉」



そんな時、(全ての元凶である)榊先生が目の前に現われた。それを合図に私達は背筋を伸ばして、何でしょう?と話を聞く体勢に入る。



「すまないが、今日1日でいいからマネージャーをしてくれないか?」



…直後に出た「え゛」という声は酷く濁っていたに違いない。話が違う上に急すぎる提案に眉間に皺を寄せ沈黙していると、私の思惑に気付いた景吾が非難するような声で代弁してくれた。



「監督、それはちょっと流石に」

「では観客席で何もせず1人で佇んでいるか?居た堪れないと思うが」



確かに先生の言う事は一理ある。いきなり部外者が練習試合に来て、手伝いも何もしないでただ見てるだけなのは傍から見てもおかしい。



「…先生、それはもしかしなくても最初から狙ってました?」

「まさか」



でも、それならそうと最初から言ってくれればいいじゃない。言われた上で来たかどうかは別として。ジャージ着て来いって言ったのもこの為だったのかと今になってようやく気付き、景吾もこれ以上は立場上反論出来ないのか不服そうな表情で口を結んだ。



「わかりました、やります」



不本意すぎるし納得なんて微塵も出来ないけれど、ここまで来ちゃったからにはもうやるしかない。割り切れ自分。頑張れ自分。

そうして榊先生はビシッと指を揃え、お馴染みの決め台詞を残してから去って行った。その後ろ姿を見て思わず「むしろ逝って下さい」と呟けば、景吾は苦笑しながらコツンと頭を叩いて来た。
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