はじめましてと笑顔

平和、平凡。この言葉以上に幸せな事は無いと思う。無駄に派手な表面上だけの日常なんていらないし、そうなったところで得られるものがあるとも思わない。

本当は普通に生活出来ればそれでいいんだけど、私にはそれだけじゃ駄目な理由がある。だからひたすら地味に、目立たなく、大人しく。必要以上にそれを心掛けなくちゃいけないのは少し面倒だけど、これも自分が選んだ事だ。



「Miuちゃんこっち向いてー!うん、良い表情!」



人の目に映るこの仕事をしている以上、きっと変装をしない限り地味に生活する事なんて出来ない。自惚れとかじゃなくて。それに高校といえば中学よりはマシだけど、まだまだ好奇心が旺盛な時期だ。興味本位とか、芸能界との繋がりとか、そういうのが目的で近寄られるのは迷惑だし、何よりも私は誰とでも平等でいたい。特別扱いは好きじゃない。



その為に、私は。

私は。



Real you




4月下旬。入学式や学年の入れ替え等が既に終わったこの微妙すぎる季節に転入生が来るとなれば、生徒達の話題の中心になるのは当然の事だ。転入生というだけで他の人のよりも個人情報が詳しく知られるのは少し嫌だけど、間に合わなかったものは仕方ない。

それに、なんだかんだでちょっとは楽しみではある。勿論本来の正体は隠すにしても、それだけで友達が出来ない訳じゃない。仲の良い子が出来たら良いな、くらいは思って当然だ。



「うわー、地味ー」

「そうしてるんだもん」

「人間変わるもんだなぁ」

「何、その目」



今私の姿を見て非難めいた言葉をかけて来たのは、海外にいてこっちに来れない両親の代わりの保護者代理、従兄弟の優兄(ゆうにぃ)だ。優兄とは私が小さい頃から一緒にいるからもうだいぶ長い付き合いになる。21歳という中々良い歳なのだけど、話してて違和感を抱かないぐらい私にとっては近い存在だ。本当のお兄ちゃんみたいな感じ。



「ま、せいぜいバレないようにしろよ」

「うん、任せて」



死んでもバレたくないし、と呟けば優兄は呆れたように笑った。同時に、散りかけの桜の花びらが鼻をかすめて、それがくすぐったくて私も笑った。
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