「ねぇ、Miuの新連載コーナー見たー?」

「見たー!Miuの制服姿超可愛いよね!」



それからMAGICがまもなく発売されて、発売日には必ず雑誌を広げている女子達の方から相変わらずそんな声が聞こえた。嬉しい反面恥ずかしいというこの気持ちはどうにも消えそうにない。時間が慣らしてくれるようなものでは無いみたいだ。



「MiuちゃーんかわEー!」

「へぇ、新連載持ったんだ」



ジローはいつも図書室から1番乗りでMAGICを借りてくれてて、HR直前に滑り込むように教室に来ては私、景吾、香月の所に来て広げて見ている。正直これが1番慣れないもので、一応そうだねーと話は合わせておくものの私と景吾は少し気まずい。



「変わるもんだな」

「変装と先入観ほど大事なもの無いよ」



2人が雑誌に熱中している間、私達は私達でそんな事を小声で話したり。

でもその時、急にジローが大声を上げた。



「ど、どうしたの?」

「これブン太だCー!」

「あれ、後ワカメ君もいるじゃない」



びっくりして目を瞬かせている間にもジローの意識は完全に雑誌だけに向けられていて、香月と一緒に指を差している先にはブン太さんと赤也さんの姿があった。え、な、何、もしかして知り合い?動揺している事は悟られないようにしながら、その類の質問を口に出す。



「知り合いも何も、景吾と芥川のライバル校よ」

「ライバル校?」

「立海のテニス部だC。んでもってブン太は俺の中学校からの憧れ!ボレーがマジマジすっげぇーの!」

「高校入ってからすっかり仲良くなったわよね。兄弟みたい」



うわぁ、こんな偶然もあるんだ。世界って狭い。まさかの新事実に内心感服する。



「そういえば景吾、あんた次の練習試合立海とじゃなかった?」

「あぁ、そうだったな」

「俺この雑誌持ってこーっと!」

「それ図書室から借りてきたやつだろ」



とそこで話題は変わり。テニス部最近練習試合多いわねぇ。そう呟いた香月の言葉にギクリとして肩を少し強張らせると、気付いた景吾はからかうような視線を送って来た。

それに気付かないフリをしてそっぽを向き、次は移動教室だから私達は各々授業の準備に入った。で、ジローはおぶって貰おうと思ったのか香月に寄りかかったけど、肝心の香月は凄い勢いでそれを跳ね除けて、結局2人はバタバタと先を走って行った。

そうなれば必然的に私と景吾は2人きりになる訳で。



「ねぇ景吾」

「アーン?」

「私、練習試合見に行かなくてもいいかな」



ちょっと自分の中で気になってた事を景吾に相談してみる。

そう、最近テニス部に練習試合が多い理由は紛れも無く私にあるのだ。いつだか音楽室で是非見に来て欲しいと誘われた以来、行けると思ったら仕事が急に入ったりでドタキャンせざるを得なくなってしまい、それがもう今回で3度目となる。本当に私の事は気にしないで下さい、とは再三伝えてあるのだけれど、このままだと先生は私が見に行くまで何回でも練習試合をやるつもりな気がする。



「お前が見に来るまで監督はいつまでも誘ってくるぞ」

「な、なんで私そんなに気に入られてるの」



だけど景吾の返事はそんな感じで、何だか嬉しいような、悲しいような。複雑だ。



「ブン太さんと赤也さんは勘鋭い?」

「さぁな。でも立海だから食えねぇ奴等ってことは確かだ」



流石につい先日取材したばかりの2人に会うのは気が引ける、でももういい加減3度目だし断るのも申し訳ない。そんな矛盾がぐるぐると頭を回っていると、ふいにポン、と大きな手が乗って来た。



「安心しろ、お前が思ってる程心配することじゃねぇよ。万が一バレた場合は俺からも厳重に言っておいてやる」

「…ありがと」

「あぁ。まぁどっちにしろバレないようにしろよ」

「勿論」



私の考えを見透かすようにそう言ってくれた景吾に、緊張が少しだけ和らぐ。やっぱり景吾は頼りになるな、と思いながら、移動教室までの道のりをゆっくりと2人で歩いた。



***



「では、今週は大丈夫なのだな?」



職員室の質素な雰囲気とこの人は本当にミスマッチだな、と何度見ても思う。そもそも学校にいる事自体が似合わず、どう考えても芸術家にでもいそうな風貌なのだ。違和感を抱くのも無理は無い。

なんて事を思いつつ泉は再度榊に頭を下げ、顔を上げ、口を開いた。



「何度も誘って頂いたのにすみませんでした」

「気にするな。楽しみにしているぞ」



何をだ、という疑問は心だけに秘めておく。



「はい、よろしくお願いします。では失礼します」



ゆっくりとドアを閉め、とうとう行くんだなぁと何故か他人事のように考えながらその場から立ち去る。泉はこの時、この練習試合がどういうものになるかなど、何も予測出来ていなかった。
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