「うわああぁああん!!」

「子供かよお前…」

「ウス」



卒業式も終わり、残るは後輩達が作る花道を卒業生が通るだけとなった。廊下に出てその準備をしようと思った矢先、日吉の耳にはどでかい泣き声が入って来た。横を見ると同じように泣き声に反応している樺地がいたので、仕方なく2人でその発信源へ向かう。



「笑顔で送り出したかったけどやっぱり無理だよぉおお」

「俺達は最初からこうなるって分かってたけどな。な、樺地」

「ウス」



日吉の言う通り、子供のように泣きじゃくっている鳳はまさに見るに堪えなかった。とりあえずうるさいので泣き止ませる為に頭を思い切り叩いてみるが、今の彼には効果が見られないようだ。



「先輩達の前でその情けないツラ見せるつもりか」

「だって…」

「だっても何も無いだろ。最後くらい笑え」

「それ日吉に言われたくない…」

「俺は良いんだよ」



自分の事を棚に上げている日吉だが、確かにその言葉はもっともだ。そう思い直した鳳はゴシゴシと裾で涙を拭き、一度勢いよく両手で顔を叩いた。そっとティッシュを渡して来た樺地にお礼を言ってから、遠慮なく鼻をチーン!とかむ。



「俺、笑顔で送り出す!」

「最初からそうしろ」



卒業式に合わせたBGMが鳴り響く中、廊下の奥の方から一際大きな声援が聞こえてきた。それが合図だと言わんばかりに3人は身を乗り出し、その人物達に目を向ける。



「何処に居ても目立ちますね、貴方達は」

「なんだよひよC、可愛くないぞー!」

「そーだぜ!もっと祝福しろよな!」



3人の姿を見つけるなり駆け寄って来た彼らは、本来クラスごとでまとまるのが普通なのに、そんな事はお構いなしにいつものメンバーで集まっていた。各々既に沢山のプレゼントを貰ってるあたり、この後も揉みくちゃにされるのは間違いないだろう。



「泉先輩宍戸さぁああぁん!!」

「お前だから自分の図体考えろよ!」

「あはは、大きい犬だー」



大好きな2人に思いっきり抱きついている鳳を見て、周りは写真を撮ったり笑ったりなどの反応を示す。先程まで笑顔で見送ると言っていた鳳の目には既に涙が溜まっており、日吉は諦めたように目を伏せた。そしてそのまま、視線は逸らされる。



「いよいよお前達の世代だな」

「超えてみせますよ、絶対に」

「期待してるぜ」

「…俺、先輩達の事尊敬してますよ」



口調はぶっきらぼうだが、その言葉が出ただけでも日吉にしては花マルだ。跡部は満足げに微笑むと、話の続きを促すように一度深く頷いた。



「跳んでばっかりの向日さんも、寝てばっかりの芥川さんも、人をからかってばかりの滝さんも、短気な宍戸さんも、気持ち悪い忍足さんも」

「なんで俺だけそんな扱いやねん」

「そして、誰よりも強い跡部さんを」



鳳にあぁ言った手前絶対に涙は見せたくない。プライドだけは絶対に曲げたくないその姿勢は、確かに跡部の背中を見てきた事が分かる。



「こんな俺を最後まで面倒見てくれて、本当にありがとうございました」

「こちらこそありがとう。でも、跡部の意地っ張りまで見習わなくて良いんだからね」



滝の言葉でその場には笑いがこぼれ、日吉もフッと口元を緩める。言葉は少ないが、ずっと自分を引っ張って来てくれた彼らにはこれだけでも充分通じると分かっていた。なので、また視線を違う方へ逸らす。



「泉先輩」

「うん?」

「貴方が来てから、全てが変わりました」



個人的な想いを伝える気は無い。しかし、せめて一言くらいは言わせてほしい。



「これからもずっと、そのままの泉先輩でいて下さい」



泉はそれに対しいつもの笑顔で頷き、そうして彼らは後ろが詰まってるのを見兼ねてその場を立ち去った。いつまでも見ていたい背中は、今日で一度お別れとなる。



「先輩達のように、なろう」



その言葉と共に樺地は鳳と日吉にティッシュを渡す。2人の鼻をかむ盛大な音がその場に響き、つい笑った。
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