「―――…回、氷帝学園高等部、卒業証書授与式を行います」



伴奏と共に修礼をし、周りの者とタイミングを合わせるようにして着席する。そうしてようやく始まった卒業式の中、泉の目から見ると校長の話に聞き入っている者はあまりいなかった。ぼーっとしているか、寂しそうに目を潤ませているか、その他にも色々いるが、なんにせよこの空間を実感している者はあまりいないように見える。



「卒業生代表、跡部景吾」

「はい」



しかし跡部が壇上に上がると、流石に騒ぎこそはしないものの何人もの顔がパッと上がったのが窺えた。比較的後ろの席に座っている泉だからこそ分かる光景に、改めて彼の存在感を思い知らされる。

 “俺が行く時までで良いから、ちゃんとした返事をくれ”。

あの日、想いを告げられたと同時に言われた言葉は未だに泉の中で強く残っており、その一字一句をいつでも鮮明に思い出せる。彼の進路的にもその後は多忙が続き、今まで会える事は無かったが、それでも忘れた事は一度たりとも無かった。



「(あの時、どんな気持ちだったんだろう)」



今も尚凛とした声で話し続けている跡部に、心の中でそんな風に問いかけてみる。勿論返事は無いのだが、最近になって彼をなんとなく意識し始めているのは自分でも薄々感じていた。ただそれがなんなのかを問われると、まだ言葉に詰まる。



「此処氷帝学園に通っていた事は、間違いなく自分の中で人生を大きく左右する出来事でした」



堂々と言い放っている跡部とその時目が合ったような気がして、泉は彼が式典を読み上げている最中、一度もその姿から目を離す事が出来なかった。



「僕は、この学校で出逢えた人の事をこの先一生忘れません」



それが自分に向けられているのかは、あまりにも自惚れた考えすぎて何も言えない。自分に言われたものだと思い喜んでいる女子達が、今ばかりは少し羨ましく思えた。



***



「このクラスの担任でいれた事を、先生は本当に」



そこまで言って声を詰まらせた担任につられ、生徒の何名かも鼻をすする。すっかりしんみりとした雰囲気の中、3年A組最後のHRは行われていた。



「泉は絶対泣くと思ったけど、意外とキョトンとしてるわね」

「なんだかまだ実感無くって」

「わかるー、俺もまた明日登校してきちゃう気がするもん」



相変わらず後ろを向いてくる香月と芥川と会話を交わすが、跡部はまだ口を開いていない。決して嫌な雰囲気な訳では無く、その無口が何処から来ているのか2人もなんとなく察しているので、わざわざ問い詰める事はしない。その気遣いは今の跡部と泉にとっては有難いような歯痒いような、複雑だった。



「俺、このクラス大好きだったなぁ」

「まぁ過ごしやすくはあったわね」

「うん。私も大好きだった」



しかしその発言には同意して欲しいのか、芥川は跡部にジッと視線を送る。最初は気付いていないフリをしていた跡部もいい加減根気負けしたのか、一度溜息を吐いてから口を開いた。



「良かったんじゃねーの」



照れ隠し満載な返答に3人は笑顔を見せ、それから担任が写真を撮ろうと呼びかけて来たので席を立つ。黒板には真ん中に「祝卒業!」とデカデカと書かれており、生徒達の落書きも沢山描かれている。彼らは全員その黒板の前に立ち、卒業証書を手に泣き笑いのような表情を浮かべた。その賑やかさは学祭を連想させたが、実際はそれよりももっと深い何かが詰まった光景だった。
 2/4 

bkm main home
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -