「可愛いもの沢山見れて楽しかったー。次はメンズ服見に行く?」

「いや、俺はいい。そろそろ行くか」

「そうだね」



時々休憩を挟みながら買い物をしていると、時間が過ぎるのは早いもので、2人はそろそろ帰路につく事にした。2人の間には常時会話が絶えなかったにも関わらず、それでも話題は尽きそうにない。



「年が明けたら登校日も少なくなるねー」

「どうせあいつらの事だから毎日のように会うんだろ」

「景吾だってその中に含まれてるでしょ?」

「むしろお前もな」

「わーい」



そうして外で待っていた車に乗り込み、行きとは違うルートで泉の家に向かう。車内でも変わらず会話を続けていた2人だったが、目的地に近付いてくると途端に彼女の口数は少なくなった。その事に跡部は勿論気付いたものの、とりあえず家までは送ろうと信号待ちで車が進むのを待つ。しかしその時、ふいに泉は彼の服の裾を引っ張った。



「家までは歩いて帰ろう」



此処から泉の家までの道のりは、徒歩に換算すると15分以上はかかる。普段なら絶対にこのまま車を使う所だが、泉に頼まれてはそうする訳にもいかない。それに、その言葉にどんな意味が込められているかが分からない程、跡部も鈍感ではない。信号待ちの時間を使って車から降り、人気の少ない道に出る。



「急にどうした」

「わ、わかんないけど。なんか歩きたい気分?」

「自分で疑問持ってどうする」



とはいえ当の本人が自覚してないようでは、変に行動を起こす事も出来ない。跡部はそんなもどかしさに駆られつつも荷物を持ち直し、未だ自分で自分に首を傾げている泉の右手を取って、ゆっくりと歩き始めた。



「この手はなんだろう?」

「迷子になったら困るだろ」

「だから子供じゃないってばー」



なんとなく照れるがそれを表面に出せるほど器用じゃないという面に関しては、2人とも子供で間違いないだろう。



「だいぶ冷え込んできたね」

「手冷てぇぞ。今日手袋買った方が良かったんじゃねぇのか」

「そうかも。また次の機会に買おうかな」



日が落ちるのが早くなったせいか、18時をまわったばかりの今で既に空は薄暗い。泉の家に着く頃には完全に暗闇に包まれているだろうが、そんな中でも、2人はいつもよりもずっと遅い速度で歩き続けている。




「今日はありがとう。楽しかった」

「あぁ。玄関まで送るか?」

「ううん、此処で大丈夫」



マンションの前に着いてからも、その言葉を区切りに沈黙が流れる。一向に動き出そうとしないのは両方とも同じで、展開を急かすような冷たい風が吹き抜けた。



「また明日な」



結局跡部は泉の頭を二度ポンポン、と撫で、先程とは打って変わった早足でその場から立ち去って行った。その後ろ姿をしばらくなんとなく見つめ、途中で我に返り彼女もまた同じように早足でマンションの中に入る。漠然とした、なんとも言えない感情が、泉の胸の中でぐるぐると回り続けていた。
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