「やーっと見つけたでー!裏庭ー!」 「ふう、やっと空いてる場所に来れたよー」 「金ちゃん!キヨ!それに皆も、良かったーちゃんと合流出来て」 立海の皆と一緒に休憩に出たはいいけど、この人数で校内をまわるのには流石に無理があった。だから人気が無さそうな裏庭に来てみるとその予想は当たって、ついでに他の他校の皆も呼んで大集合する。蔵ノ介が宍戸君のクラスからお好み焼きを買って来てくれたりして、一気にその場が華やかになった。 「教室の方は手伝いせんで大丈夫なんか?」 「えらい混んでましたよね。泉さん、看板娘やろ?」 謙也と光君の質問には笑ってごまかしておいて、早速お好み焼きを食べる為に大きな輪になる。その時隣にちょこんと座って来たブン太は、そのままお箸で一口分のお好み焼きをすくうと、 「はいどーぞ。あーん」 「丸井先輩が食料人にあげてる!ありえねえ!」 ブン太の食い意地は私も知ってるつもりだから確かにびっくり。でも、立ちっ放しでお腹が空いていたのも事実なので、それには大口を開けてありがたく食い付いてみた。四天宝寺の皆と大阪で食べたお好み焼きの方が美味しいけど(ごめんね宍戸君)、これも空腹にはたまらない。もう一口! 「餌付けされてる雛みたいばいー」 「それって褒めてる?」 「こっちも食べんしゃい」 輪の中心にあるお好み焼きは結構な量なのに、物凄いスピードで無くなっていく所が男の子だなぁなんて思う。これだけの人数となると全員と話すのは流石に無理で、でも至る所で繰り広げられている会話全部が私を笑顔にさせた。キヨなんかは白いドレスが汚れないように、って自分のシャツをかけてくれて、周りに「流石チャラ男!」って冷やかされてる。優しい事には変わりないよね。 「おい、俺は帰るぞ」 「え!?なんで!?やっと泉ちゃん休憩なのに!」 「教室でも充分うぜえくらい話しかけてただろーが。これ以上混むのはごめんだ」 「そんなー」 そうしていると時間が過ぎるのも速く、亜久津君はごねるキヨを置いて立ち上がってしまった。不機嫌になっちゃったかな、と思ったけど手を振り返したら軽く片手を挙げてくれたので、そういう訳では無いみたい。で、結局キヨも彼に続いて皆にお別れの言葉を投げかける。 「泉ちゃん、それ返すの今度で良いからね!」 「え、でも」 「それで次のデートに繋げようっていう魂胆丸見えだよ」 「幸村君そこは言わないお約束でしょ。でも間違っちゃいないから、また今度!」 颯爽と去ってしまったので本当に返す暇も無く、まぁ確かに次会った時に返せばいいやと思いそのままバイバイをする。2人に続いて四天宝寺の皆もそろそろ電車が来るとの事で、わいわいと騒ぎながらこの場を後にした。元気に飛び跳ねてる金ちゃん可愛いー。 「青学と立海の皆はどうする?」 「僕的には、働いてる泉の姿が見たいかな」 「同意っすー!まだ帰りたくないっす!」 問いかけてみれば周助と赤也君からそんな答えが返って来たので、私達は再びA組に戻る為立ち上がる。きっとまだまだ並ぶだろうに、それでも来たいって言ってくれるなんて優しいなぁ。少しでも行列が減ってるのを願いつつ、私達は教室までの道のりを楽しく過ごした。 *** 「おかえり泉。次、私と芥川このまま休憩行ってくるから」 「そうなんだ、いってらっしゃい。景吾は?」 「指名数No.1がそう簡単に抜けれる訳ないでしょ」 いつから指名制度が出来たのかは謎だが、香月の言葉と共に跡部を見れば彼はせっせと忙しく接客していた。とはいえ、その接客が“している”というよりも“してあげてる”状態なのは、誰から見ても分かる事である。 香月と芥川の背中を見送り、泉も気合を入れ直して再び働き始める。外では2校が先程よりはマシになった行列に並んでいて、時折ドアから顔を出しては手を振ってくれるのが彼女にとっては微笑ましかった。 「休憩楽しんで来たか」 「おかげさまで。ごめんね、景吾ばっかり忙しくて」 「こんなの目に見えてたから今更だ、気にすんな」 ぽん、と撫でられた頭に安心感が芽生えたのも束の間、またすぐに新しい客が入って来る。 そうしていよいよ2校の順番が来るなり、教室内の喧騒は今までで1番となった。 「俺スイーツ全部!」 「丸井、最近体重が増えただろう。少しは体調管理に力を入れなさい」 「やっぱりそうなんすか?なんか会った時から丸くなったなぁって思ってたんすよね」 「越前お前調子乗んなよ」 2校の人数もそうだが、客も客で更にイケメンが増えた事によりその黄色い声が大きくなっている。おかげで泉と跡部は文字通り休む暇も無い。 「さっきは横取りして悪かったのう」 「黙れ」 「そうカッカしなさんな」 それでも仁王が空気を読まずに跡部を呼び止めると、彼は露骨に嫌そうな顔で返事をした。今の彼に冗談は通用しないらしい。 「全員まだ、手離したくないんじゃ」 しかし、妙に静かなトーンでそう言った仁王の言葉には何故かいつも通り返事が出来なかった。まだ、手離したくない。それに隠された意味を跡部はまだ理解出来ない。 「お前、それどういう」 「泉、チーズケーキが食べたいなり」 「さっきブン太がお店のスイーツ食べきっちゃったよー!」 半泣きになりながら走り回っている泉は、本人からすると笑いごとでは無いのだが、客観的に見ると愛らしくて堪らない。縮まりそうで中々縮まらないその距離感にわだかまりを感じているのは、果たしてどのくらいいるのか。 「お互い頑張っていこうぜよ」 「…そうかよ」 結局一般公開時間が終わるまで彼らはずっとA組に居座り、入れなかった客からクレームが入ったのはまた別の話。そんな、学祭1日目。 |