「で、何で全員大集合しちゃってるのかな?」



時は夜。今私は、これから仕事に行く為に景吾の部屋に来ている…のだけれども、何故か部屋に入った直後千里と雅治まで入ってきて、頭の上は疑問符でいっぱいになる。お見送りっていう事になるのだろうけれど、喜んでいいのかかなり複雑なところだ。



「…心配だったので」

「ったくどいつもこいつも」

「ま、いいんだけどさ」



更には珍しい事に日吉君までいる。この子も実は心配性だったんだなぁと思いながら、狭くなった部屋に対して眉間に皺を寄せてる景吾を横目で見て、苦笑する。



「ほんとスタイルえぇのう」

「仁王が言うとやらしかー」

「そうですかー」



いくらラジオとはいえ仕事なので、服装は勿論日中のジャージ姿では無い。といってもただのデニムにTシャツと最大限にラフな格好をしているのだけれども、それでも雅治は感心したように全身を見て来た。ちょっと居心地悪い。

何はともあれもう行かなきゃ。そう思い窓に足をかけ、人数分のいってらっしゃいが聞こえたと同時に、私はそこから軽く飛び降りて北野さんが待ってくれてるであろう入り口へと急いだ。



「…どないやねん」



ちょうど満月を観察していた蔵ノ介が、その現場を見ていた事など知らずに。



***



「お前は行かんくて良かったんか」

「俺だって宍戸さんが行くなら行きたかったよ、でも頭洗ってる時に行っちゃうんだもん!」



さっきまで騒がしかった大浴場は、俺と鳳が頭を洗っとる間にすっかり静かになっとった。なんでも鳳曰く、さっきまでおった謙也さん、宍戸さん、仁王さん、丸井さんは、賭けポーカーをやるとかで意気揚々と出て行ったらしい。



「そういう財前も謙也さんに置いて行かれたの?」

「別に俺は1人でもええし。むしろ清々するわ」


とそこで俺は、そういえばこいつも泉さんに対外惚れとったなと思い出し、未だに餓鬼臭く頬を膨らませている奴に向かって口を開いた。



「俺の先輩ら、お前がベタ惚れでやばいってよう話しとるで」



かくいう俺も言われとるけど。



「当たり前じゃないか!泉先輩は本当に優しいんだよ、いつも俺のピアノを笑顔で聞いてくれて、しかも誰にでも優しくてそれに」

「魅力は十分わかっとるから言わんでえぇわ」

「え?俺が自慢したいんだよ」

「見せつけかい」



全く悪気が無さそうなだけにタチが悪い。そして誰の事かを言わずともすぐに反応して来た奴に、確かにこいつは本物やなと確信した。普段あんま話さんから想像つかへんかったけど、これは酷い。



「財前は泉先輩にどうして惚れたの?」

「…誰が言うか」

「いやー泉先輩の1番の魅力はやっぱり笑顔だよね!本当あの可愛さ、いや綺麗さも勿論あるよ?ていうか笑顔が自体がもうストライクすぎて」

「わかったから」



もうツッコむ気力もあらへん。



「財前はどんな人がタイプなの?」

「家庭的な女」

「うわぁ、もろに泉先輩だ!先輩の料理は絶品だよね!なんていうか」

「自分はどうなん?」



別に気になる訳やないけど、なんか言わんとまた延々と語り始めそうやから、俺は言葉を遮って無理矢理質問を返した。



「俺?俺は、浮気しない人かな」



過去にされたんかお前。軽い気持ちでしたつもりの質問の答えは意外とディープなもんで、ほんの少しだけ同情した。でも当の本人は別にそんな事どうでもええのか、結局また延々と先輩の話を始めた。

白石部長は、俺の事を重症って言っとった。…でも、明らかコイツのが重症やろ。そう思いながら、のぼせによってかあの人の事を考えてかわからへんけど顔を赤くしてる鳳を見て、俺は深く溜息を吐いた。手遅れや。
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