「ほんっと最高」 「ありがとう」 本日のメニューは肉そぼろ丼だ。味噌汁はなめこ、おかずには驚異的な厚さに絶妙なダシが効いた、ボリューム抜群のダシ巻き卵が用意されている。和食を好む越前にはこれが相当ヒットしたようで、いつものような天邪鬼は見られない。 「お口に合いますか?」 「あぁ、たまらんな」 「真田君はなめこの味噌汁が好物ですからね」 心なしかいつもの厳格な表情を緩ませている真田を見て、そして柳生のその言葉を聞いて泉も顔を綻ばせる。 「そうなんだ!良かったー。切原君は焼肉とお寿司が好きって言ってたよ」 「うちの部員は全員焼肉好きだぜ。ブン太に限っては雑食だけどな」 「あふぁふぃまえだふぉい!」 「はいはい食べながら喋らない」 恐らく訳は「当たり前だろぃ!」だ。 その時テーブルの一角から自分の名前を叫ぶ芥川の声が聞こえ、きっとおかわりだろうと予想した泉はそのまま彼の元へ駆け寄った。芥川の席の近くにいる鳳、宍戸、滝と軽く会話をし、ようやく目的地に到着する。 「はいっ!これ!」 「へっ?」 しかしその途端、芥川は唐突に何かを泉に差し出した。まじまじと見れば見るほど見覚えがあるその箱は、まさに彼が大好きなムースポッキーだ。 「クソクソジローッ!なんで跡部と泉にはあげて俺にはくれねぇんだよっ!」 「あとべは物珍しそうな顔で見てたから、食べた時にどんな反応するか見たかっただけだCー」 「てめぇ俺をハメたのか!?」 「怖いやっちゃな」 「全く…」 「あ、あのジロー。そんな大事なもの貰っちゃっていいの?」 しかも1袋丸ごと、と付け足して問う泉。それもそのはず、芥川は普段からムースポッキーを大量に所持している割には人にあげない事を、泉も知っていたからだ。しかし泉のそんな心配とは裏腹に、芥川は歯を見せてニッと笑いながら、口を開いた。 「泉はその分超おいC料理作ってくれてるからいいのー!しかも俺、泉大好きだC!」 「…ありがとう」 その屈託の無い笑顔と嬉しい言葉に、思わず泉もつられて満面の笑みで返す。するといつものごとく鳳が騒ぎ出した事については、話が長くなるのでスルーしておこう。こうして賑やかな夕食時間は過ぎ、誰もが満足した状態で夕食会場を後にした。 *** 「へぇ、ブログやってるんだ」 「なんもおもないですけどね」 「良かったら教えて?暇ある時コメントするよー!」 「勿論っすわ」 「何話してるのー?」 夕食後。練習中に約束した通り、今泉さんは俺の話し相手になってくれとるんやけど、そんな至福の時にやって来たのは青学の菊丸さんやった。 「僕達も仲間にいれてくれるかな?」 「あ、周助も」 菊丸さんは無自覚やろうからまだ良いとして、この人は確実に確信犯やろ。そう思て不二さんを見とるとふいにその目は俺を捉え、それはそれは楽しそうに笑いよった。殺意沸いてくるわほんま。っちゅーか2人共風呂の用意しとるやんはよ行けや、と心の中で更に毒づく。 「随分不機嫌だね、四天宝寺の天才君」 「さっすが青学の天才さん、何でもお見通しやなぁ」 「ってゆーか朝倉ちゃん髪サラッサラだにゃー」 厭味を言うてくる不二さんに負けじと言い返していると、唐突に話題は泉さんの話になった。菊丸さんにつられて、俺もその綺麗な髪に手を伸ばす。ウチの癖毛まみれのスピードスターとはえらい違いの手触りに、思わず素で感心した表情を浮かべてしもた。それを見た不二さんがまた何やら言うてきたけど、今の優先順位(いつもやけど)は泉さんやからあえてスルーする。 「さて、じゃあそろそろ私は行こうかな」 でもそこで、未だ撫で続ける俺の手を泉さんは優しく握って離れさせた。そしてにっこり笑い、俺ら3人に手を振ってその場を去っていった。 「良い子だにゃー朝倉ちゃん」 「なんていうか、1つ1つの動作が凄く綺麗というか。ね、財前君」 わざとらしく俺に話を振って来た不二さんに、まぁそれは認めますわ、とだけ返す。しばらくして、俺と不二さんの妙な間合いに気付いた菊丸さんがなんだなんだと騒いできたので、それを合図に俺もそこから立ち去る為椅子から腰を上げた。 「ちゃんと手洗うんだよ」 うっさいわほんま。 |