「ドリンクでーす」

「やったー!今日は泉さん担当なんですねー!」

「そうだよー」



今日私が担当する学校は六角と四天宝寺。無垢な笑顔で近付いて来た剣ちゃんとは対照的に、何やら含みのある笑顔を向けて来たサエのことは見なかったことにする。



「っつーか今日やたら暑いなー。お前長ジャージで暑くねぇのか?」

「うん、大丈夫」



バネさんの疑問には作り笑顔で返事をする。いや、ぶっちゃけ言うと結構暑いのだ。でも、昨日一昨日とポロシャツ、ショートパンツで過ごしたら若干日焼けしちゃったし、しかも今日はまた夜抜け出して仕事に行かなきゃいけないからここは我慢。

それにしても暑いなぁ。ちょっと嫌になって太陽を睨みつけるように仰ぐと、いつの間に隣に来たのか、亮君は我慢は禁物だよ、と言って妙に色っぽい笑みを浮かべた。今更だけど亮君ってミステリアスだよなぁ、と思いつつ、あははと乾いた声を出す。



「暑さにHOTする…プッ!」

「逝け!」



此方でははたまた華麗な跳び蹴りが披露されているけど、もはや見慣れちゃったのかあまり驚かなくなった。慣れなんてこんなもんだよね。



「それにしても本当に美肌だよねー」

「わぁ、唐突にありがとう」

「僕も思ってました!」

「触っていい?」

「四天宝寺さんに配ってきまーす」



そうしていると、突如降りかかって来た褒め言葉。予想してなかっただけにそれは素直に嬉しいけど、きっとこのまま居座ってたらいつまでも抜け出せない気がするから、こういう時はさっさと退散してしまおう。

くるりと踵を返してしばらく歩いていると、何やら視線を感じたからもう一度後ろを振り向く。するとそこにはやっぱり満面の笑みで手を振っているサエの姿があった。あの人は本当に読めないなぁ、見た目は浜辺の王子様、って感じなのに、ギャップがありすぎるよ。

私はそんなことを考えながら軽く手を振り返し、今度こそ四天宝寺のコートに向かった。



***



「ほんでなぁー!」



トイレからコートに戻るなりすぐに金ちゃんの楽しげな声が耳に入り、何事かと思うと案の定その先には泉がいた。せやから素直にそっちに足を進め、2人の間に入る。



「楽しそうやなぁ金ちゃん、何しとるん?」

「白石ー!ワイ泉のこと大っ好きや!」

「いきなりどないしたん?」

「泉はなぁ、ちゃんとワイの話に相槌打って真剣に聞いてくれるんやでー!」

「ちょ、その言い方やめ。俺達が普段適当みたいな感じになっとるやん」



子供っちゅーんは末恐ろしいな、と思いながら金ちゃんの口をわざと慌てながら塞いでみる。すると泉は楽しそうな笑い声を上げ、それを聞いて柄にも無く関西人の血が騒いだ。ほんま柄や無いわ。



「2人共本当の親子みたいだねー、見てて飽きないなぁ。ってごめん蔵ノ介、はいこれ」

「おおきにな」



そうして手渡されたタオルとドリンクを受け取り、金ちゃんとまた話をする約束をして泉は他の奴らにも配りに行った。



「泉さん、今日も部屋行きますわ」

「今日も、て何やらかしと?」

「ホンマや!隅におけへんやっちゃな!」



食ってかかる千歳と謙也にドヤ顔をかます財前を見て、あちゃー、と頭を押さえる。小春とユウジ、それに銀さんは傍観者ってとこらしく、特に小春は珍しい光景にキャッキャと相変わらずキモい声を上げとった。



「こらこら、あんまり騒いでるとドリンクこぼれちゃうよ」

「泉さんが作ったものならこぼれても飲みますわ」

「不健康です」

「っちゅーかお前キャラそんなんやったか?」



いつまでもうっさい財前に謙也が困っとるのを見て、俺はそろそろやなと思いなにげなくその輪に近寄る。千歳の才気煥発を使わずともあいつが暴走するタイミングがわかってきてしもたのは、果たして良いのか悪いのか。



「合宿終わったら連絡してえぇッスか?」

「全然構わないよ」

「ほんまッスか!!」

「白石ー!試合ー!」

「待ってな金ちゃん、財前の暴走を止めてからな」



って千歳、何にやけた面で見とんねん。
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