「ごめんね、迷惑掛けて」 「迷惑なんかじゃねぇよ。他の奴らが来る前に早く行って来い」 時は過ぎ、夜。 「わかった!着く頃になったらメールいれるね?」 「あぁ、それまで起きててやるから気を付けろよ。寄り道すんじゃねぇぞ」 「大丈夫だよー。それじゃあ行ってきます」 「頑張って来い」 今、泉は本日合宿所の近くにてラジオ番組の収録がある為、1階の跡部の部屋の窓からの脱出を実行している真っ最中だ。 「泉ー、仕事か?」 「あ、雅治。うん、ちょっと行ってきます」 「気をつけてきんしゃい」 そして窓際に頬杖をついていた、同じく1階に部屋がある仁王に軽く挨拶をし、他の者にバレないよう足早にその場から立ち去る。 ラジオの収録は21時から22時までの1時間行われる。合宿所から約15分ほどで着く場所にあるので、そのくらいの時間ならまだ跡部も起きている…―――そう、安易に考えたのがそもそもの間違えだった。 *** 「それでは、本日のゲストMiuさんでしたー!」 「さようならー!」 MCのテンポの良い言葉と共に収録は終了し、収録中の砕けた雰囲気のまま終わりの挨拶を済ませる。 「いやーMiuちゃん話し上手で凄いやりやすかった!是非また遊びに来てね」 「はい、その時はよろしくお願いします!」 そうしてMCと最後に軽く会話を交わした後、泉はそそくさとその場を去った。収録現場から出ればマネージャーの北野が外で待っており、泉が急いでいる理由を知っている北野はすぐに彼女を車まで案内した。 「あそこを右折?」 「はい、そうです」 早急に乗り込んだ北野の車の中で、泉は跡部に収録が終わった事を告げるメールを打った。 が、それから10分経っても未だ返信は来ない。 そもそも合宿というものは基本的に無断外出厳禁な訳で、いくら跡部家の所有地とはいえバレたらそれなりに厳しい処分を受けるだろう(泉を贔屓している榊なら何もしないかもしれないが)。加えて収録も長引いてしまった為、今の時点で時刻は22時半を回っている。 「どうしよう…」 1人冷や汗を流し、対策を考える泉。一体どうなる事やら。 *** 本当にどうしよう!心の中でそんな叫び声が上がる。 合宿所まで送ってくれた北野さんにお礼を言って、駆け足で景吾の部屋の窓まで近寄る。すると此処でまさかの展開で、カーテンの隙間からはソファに腰掛けて洋書を読みながら寝てしまったであろう景吾の姿があった。窓は開いてない。 懇願する勢いで雅治の部屋を見てみるものの、カーテンは全開だけど中に人影は見られない。後私の正体を知ってる人達は皆1階じゃないし、もう此処まで来ると諦めるという選択肢しか残されていない。だから肩を落として正面玄関にとぼとぼ歩き始めた、その時だった。 「っ!?」 誰かに体を引っ張られて、血の気が一気に引くのを全身で感じる。でも、浮遊感に襲われた後にまたすぐに感じたものは、暖かなぬくもりだった。 |