「先輩には負けない、っすわ!」 向かいで必死にボールを追いかけとる財前はいつもと違うて、随分余裕が無いように見える。証拠に、俺が逆をついて打ち込めばすぐに点は取れた。こんな見え見えのフェイントに引っかかるなんてこいつらしくあらへんなぁ、と思い当たる節がありすぎるだけに苦笑せざるを得ない。 「まだまだ俺を越すんは早いでー」 「あー、もー!全然集中出来へんわ!」 「は?」 急に試合申し込んで来た思たらありえへんほど口数は多い上に大口叩くし、なのにごっつ弱いし、しまいにはこの言葉。いくらなんでもテニスに影響しすぎちゃう、と思てとりあえず財前のコートまで歩み寄ると、こいつはラケットを地面に落とし、両手で顔を覆って空を向いた。 「視界に入るっちゅーの…」 泉のことでこうなっとるのはわかっとったけど、視界に入るくらいでこんな重症になるんか。先がかなり思いやられる。 「今は練習たい、しっかりせんと」 「強くなれへんでー?」 「謙也さんうるさい」 「何で俺だけやねん!」 すると、財前の変な態度に気付いた千歳と謙也が近寄って来て、2人はそのままからかうように言葉を投げた。相変わらず謙也はナメられとるけど、これは別にいつものことやからスルーしておく。 「やだわー光ンが恋だなんて前代未聞じゃない!」 「こら一雨くるで!」 「先輩らほんまシバくで?」 「白石ーっ、ほな次ワイとやってやぁー!」 「えぇで、金ちゃん」 と思っとったら1人、また1人と近寄って来て、練習が雑談になってもうたらあかんから俺と金ちゃんは違うコートで試合をすることにした。このどうしようもあらへん後輩はまだ気になるけど、あくまでも今は練習や。とりあえず部長の俺が示しつけなあかん。 「財前、ハマりすぎて抜けへんくならんよう気ぃ付けやー」 「今更すぎるっすわ」 せやから俺は最後に財前にそう言うて、そこから移動した。ほんまここまで悩んどる財前は初めてや。周りにバレても気にしてへんみたいやし、…っちゅーか周りが見えてないんやろな。 チラ、と視線を移して泉を見ればお構いなしに素知らぬ顔で洗濯しとるし、鈍感っちゅーのも大変やな、財前。俺はそんな他人事を思いながら、残りの時間を金ちゃんとの試合に使った。…あ、でもほんまや、1回視界に入れたら気になってまうな、これ。 |