「休憩でーす!」 あの後、自己紹介が終わってから六角にまた戻って、すぐにドリンクとタオル配布して来て、次は青学に渡す番だ。手渡しの方が良いと昨日の立海大人組を見てわかったから、今日は手渡しで渡すつもり。 「はい、どうぞ」 「ありがとにゃー…」 青学に着くとまず1番最初に菊丸君が寄ってきた。彼は他の人よりも体力が少ないのか結構お疲れ気味のようで、そこで私は気休め程度だけど濡れタオルを渡した。無いよりはマシだと思う。 「なんならベンチに横になる?短い休憩時間だけどゆっくり休むといいよ」 「んー。そうする」 とりあえずは笑顔になってくれたから良かったものの、やっぱり体調はあんまり振るわないみたい。ベンチに横になって、顔に濡れタオルをかけている。 そんな彼を不安げに見つめていると、横から大石君に「貰えるかな?」と話しかけられた。菊丸君のことばかりに気を取られて他の人に渡すの忘れてたー、いけないいけない。そう思い直し、着々と手渡ししていく。 「すまないな、わざわざ」 「これもマネージャーの仕事ですから。はい、どうぞ」 「ッス…」 「それにしても、朝倉は臨時マネなのに随分手際がいいな?」 手塚君、海堂君と順々に渡していたら、乾君にそんなことを問われちょっとびっくり。 「まぁ1人暮らしっていうのもあるし、一応この歳だしね。家事くらいは出来てないと…って、お母さんに言われて」 「自分の意志じゃないんッスねー!」 「そこ笑わない!」 自分で手際が良いと思ったことはないけど、もしそう見えるのなら思い当たる原因はこれだ。だから私がそう言えば、桃君にからかうように豪快に笑われてしまった。自分の意志ってことにしてればまだ格好ついたのかな…後悔。 「泉」 「…暑い」 桃君に対し少しむくれていると、突如背後からやけに上機嫌な周助がピタリとくっついてきた。横をみればすぐに私の肩に顔を乗せている彼と目が合い、あの、暑いんですけど。 「なーんだ、照れてくれないんだね」 「先輩さっさと離れてください」 別に嫌いとかではないにしても、周助とリョーマの2人はやっぱり危険な香りがする。だから河村君の元に回避すれば、彼は労うように苦笑した。 なんていうちょっとした危険もあったけど、これで全員に渡せた。2人も静かに飲み始めたし、とりあえずは一安心。きっと理解力があるこの合宿メンバーだったら、空になったドリンクと汗がついたタオルを元の回収BOXに戻す事ぐらい昨日でわかっただろうし、私はそろそろマネ室に戻るとしよう。そう思い踵を返す。 「はい、ストーップ」 「え、」 「そんなに急がなくてもいいんじゃない?」 けれども、これまたあっさりと捕まってしまいました。周助、恐るべし。 「早く眼鏡とってくんない?」 「何が何でもとりません」 加えて、生意気な1年ルーキーにも唐突にそんなことを言われ、一瞬心臓が跳ねたのを悟られないよう平然を装う。どれだけ後輩にナメられるんだ私は。 「んっ…」 「あ、菊丸君」 するとその時。あまりにも危険人物2人が無駄にスキンシップをしてきて、それを私が少し大声を出して嫌がっていたから、菊丸君が目を覚ましてしまった。 「ごめんね、起こしちゃったね」 「うんにゃ、大丈夫…後休憩時間何分ある?」 「5分くらいかな」 「じゃあ、もうちょっと」 だるそうだなぁ、大丈夫かな。菊丸君の様子を見て心配に思った私は、カゴから予備のタオルを3枚ほど手に取り、それを折り重ねて彼の頭の下にそっと置いた。固いベンチに直接頭を置くよかはこの方が良いに違いないし、現に心なしか表情も和らいでいる。 「合宿中は天気もずっと良いみたいだから、ちゃんと水分補給こまめにして、無理しないでね」 「はーい、お母さん」 「誰がお母さんですかー」 通常よりも間延びした話し方で話す菊丸君についツッコむと、彼はえへへ、と子供のように無邪気な笑顔を浮かべた。まるで人懐っこい猫だ。 そんな彼とは対照的にリョーマと周助はいつまでもうるさいし、しまいにはフェンスをガシャンガシャンと揺らしながら何やら叫び声を上げている鳳君の声も耳に入って来たので、私は逃げるようにその場を後にした。仕事だ仕事。 |