「つーかれったー…」 あれから後片付け、翌日の仕込みを済ませ、ようやく部屋に戻って来たマネージャー女子組の泉、朋香、桜乃。3人は部屋に入るなり一息吐き、泉に至ってはそのままベッドにダイブした。 「お疲れ様です!」 「泉さんのおかげでスムーズに出来ましたっ」 が、疲れと引き換えに1日目にして後輩からの信頼を得ることができ、これから先上手くやっていけるな、と泉は確信した。 「そんなそんな。ほら、2人共お風呂入っておいで?」 「泉さんは?」 「私は…うん、ちょっと疲れちゃったから朝早く入るね」 「わかりました」 そして2人はタオルなどを持ち、部屋から出て浴場へ向かっていった。泉は2人が部屋から出るなり深い溜息を吐き、浮かない表情をする。 本当は一緒に入って話したりしたいんだけど、仕方ないっか。そんなことを思いながら眼鏡と三つ編みを取り、再びベッドに寝っ転がる。天井を仰ぎ見るその目からは疲れが見え、今にも眠りに落ちてしまいそうだ。 「(明日は仕事か…景吾に協力してもらわなきゃ…あー眠いー)」 アラームをセットしながらそう思うものの睡魔には勝てず、泉はやはりそのまま直ぐに眠りに付いた。 果たして彼女は、今自分が何も変装をしていない、素のままであることを自覚しているのだろうか。このまま寝続けていてもいずれ朋香と桜乃は戻ってくる。そうなると必然的に彼女の寝顔が2人に晒され、本来の姿がバレてしまうかもしれない。 そんな危険が彼女に迫っている、その時だった。 「馬鹿野郎…」 朋香と桜乃が浴場に行ったのと入れ替わりに、周りに誰もいないのを確認し跡部が泉の部屋に入って来たのだ。本来女の部屋に男が入るのは頂けないが、この場合と彼の過保護からいくと納得するしかないだろう。 跡部が此処に来た理由は勿論1つ、この状況を危惧し、心配してのことだ。普段から無防備な泉がそのままの状態で寝ていないかを確認しに来たのだが、予想通りこの有様だ。当たって欲しくない予感が的中したことに眉間に皺を寄せた後、手に持っていたアイマスクをつけようとそっと彼女の頭を抱える。 「…景吾?」 しかしそうすると僅かに泉の瞳が開き、跡部は一度手を離した。 「悪い、起こしたか?」 「ううん、いいの。何で此処に?」 「お前、そのまま寝たらバレるぞ?」 「…あー」 跡部に言われ初めて自分の状態に気付いたのか、泉は彼の表情を窺うように覗き込んだ。情けない上に寝ぼけた顔をしている彼女を見て、勿論跡部は呆れ顔だ。 「アイマスク持ってきたからつけろ」 「ん…ありがと。あ、ねぇ景吾。明日仕事あるんだ」 「あぁ、その時になったら協力してやるよ」 「うん、ねぇ景吾ー」 「何だ?」 「いつもありがとね」 睡魔が限界まで来てるのか、泉ははっきりしない語尾で跡部にそう伝えた。確かに寝ぼけてはいるがその顔には笑みが浮かんでおり、跡部はそれを見るなり珍しく気の抜けた笑い方をした。 「バーカ、早く寝ろ」 「うん、おやすみー…」 泉がアイマスクを着用したのを確認してから頭を撫でた後、布団を掛け直し、跡部はそこを出た。 何処まで無自覚なんだ、あいつ。その後、誰もいない廊下の壁を背にズルズルと崩れ落ちた跡部がいたことなど、誰も知らない。 |