「おいCー!えっ何これマジマジうっまいんだけど!」 「んがっ、おかわり!」 「落ち着けよ」 そして夕食が始まり、空腹というスパイスも極まってかあまりの美味しさに彼らは大満足な様子だった。その中でも丸井の食欲は相変わらず凄まじいもので、隣に座っているジャッカルは自分の料理そっちのけでむせる彼の背中を叩く。 「…何や、超美味いやん」 「財前、何固まっとっとー?」 食べ物を口にしながら固まっている財前に千歳は話しかけたが、彼の何かを思いつめる表情は変わらない。此処はあえて触れないのがお約束である。 「喜んでもらえてるみたいで良かったねー」 「レシピは全部泉さんが考えたじゃないですか!」 「さっすが泉さんー!」 「え、私?」 一方、マネージャーが座っているテーブルの一角では、泉がトリオと朋香達に話しかけていた。それはあくまでも同意を求める内容だったのだが、そんな彼女の意とは異なった予想外の言葉が朋香を筆頭に返され、思わず目を見開く。 「泉ちゃんがレシピ1人で考えたのっ!?」 更に驚きは続き、朋香の言葉を聞いた金色が大声でそう言うと、周りの者は一斉に泉に目を向けた。 「え、あの」 「そぉですよぉーっ!ぜーんぶ泉さんがっ」 驚きが焦りに代わりしどろもどろになっている泉を他所に、何故か堀尾が得意気に言えば、周りからは感嘆の声が上がる。特にちょうど近くに座っていた氷帝メンバー各々から声をかけられると、泉は照れたように軽く頬を染めて俯き、小さくはにかんだ。普段一緒に居る分よけいに照れが出たのだろう。 「…せやから、なんやねん」 自分の才能を褒められたことで喜びを露わにしている泉は、その笑顔に某ピアス少年が見入っていたことなど気付きもせず、幸せそうに笑顔を浮かべていた。 *** それから夕食も終わり、マネージャー組は片付けに入る為流し台に立った。此方に食器を下げに来ようと足を運んでいる彼らに対し、慌てて泉は声を張り上げる。 「食器は置いといていいので皆さん入浴に、」 「ええって。こない美味い料理食わしてもろたんやから、片付けぐらい俺らでやるわ」 「いいの?えっと…」 「侑士の従兄弟の忍足謙也やでー」 しかし泉の言葉は謙也により遮られ、彼の言葉に周りの者も同意するように頷いた。その様子を見て彼女は申し訳なさそうに、じゃあお願いします、と言い軽く頭を下げる。そこまでしたところで再び謙也に向き直り、会話を続ける。 「従兄弟なんだね。侑士とかぶるから謙也って呼んでもいいかな?」 「えぇでー、じゃあ俺も泉て呼ばせてもらうわ!」 謙也は人懐こい笑顔と共によろしゅう、と言い残し、食器を置いた後その場を去っていった。そしてそれを始めに次々に人の列が出来る。 「なぁなぁ!ワイ遠山金太郎いいますねん!よろしゅうよろしゅうー!」 「うん、よろしくね」 「泉て呼ぶでー!」 「全然良いよ。私は何て呼べばいいかな?」 「金ちゃん、て呼ばれてるたいね」 笑顔を絶やさずに自分を見てくる遠山に対し、泉もまた笑顔で問いかけると、ふいに彼の背後から千歳が現れた。その様はまるで親子のようで微笑ましく、彼女の頬は更に緩む。 「わかった、金ちゃんね。貴方は?」 「千歳千里ばい。名前でよかよ」 「ありがとう、私のことも好きに呼んでいいよ」 泉は凄く背の高い千歳に内心驚きながらも、デコボコな2人の背中を見送った。 「泉ちゃんええ子やなーもうっ!」 「浮気か!?死なすど!」 「あはは、ラブラブだー」 直後、賑やかなコントと共に現われたのはラブルスこと金色、一氏ペアだ。2人の後ろには寡黙に佇んでいる石田もおり、その3人のちぐはぐさに泉は色んな人がいるんだなぁ、と1人考えながらも、ちゃんと彼らに応じた。 「アタシ金色小春!小春って呼んでやー」 「一氏ユウジや、よろしゅう」 「石田銀。よろしく頼む」 「小春、ユウジ君、銀さんだね。よろしく」 彼らとの挨拶を終え、立て続けに続いたジャージから学校ごとに並んでるんだ、と今更気付いた泉。そうなると残りのメンバーも容易く予想がつく。 「お疲れさん、ごっつ美味かったで」 「最高やったッスわ」 「ありがとう」 今のところ何かと泉と縁がある白石と財前である。 「全部自分が考えたん?」 「一応ね。即席だけど」 「即席とか凄いわ」 「そんな褒めても何もでないってば」 泉が軽く微笑んで言えば、財前はその笑顔を見てまたもや硬直してしまった。今時珍しいくらいのお約束な展開をまさか彼が繰り広げてしまうとは、重症そのものだ。 「あれ?もしもーし?」 「あー、ほな風呂行ってくるわ。行くでー財前」 「うん?」 最終的に、そんな財前の様子を察知した白石が彼を引きずる形でその場を後にした。2人の背中を見て泉は首を傾げるばかりだ。風邪とかじゃなければいいけど、後で薬とか持って行った方がいいかな。などという何ともお門違いな発想をしている泉も、ある意味重症だろう。 「財前、もう分かったから、そのすぐ表に出すのやめ。素直なお前なんてキモイだけやわ」 「うるさいっすわ」 隠すように片手で顔を覆った後輩の心配をする白石は、それはそれは呆れたように溜息を吐いた。この先まだまだ長くなるな、と思うと、彼は思わず頭を抱えたとか。 |