「よいしょ、っと」

「泉さん!このお肉どうすればいいですか?」

「んーと、じゃあそれはカツにしよっか!」

「泉さぁーん…」

「わっ、危ないよ!」



私達マネージャーは、今皆で夕食作りを進めている真っ最中だ。慣れない作業がある中でも皆真面目に取り組んでいて、きっと良いものが出来るだろうと心が躍る。



「これはこっちだっつってんだろっ!?」

「あぁもううるさいよ堀尾君!」

「あ、危ないっ!」



青学の愉快なトリオも加わって調理場は大賑わい。ちなみに今日のメニューは、スタミナをつけるために肉の盛り合わせにした。勿論栄養面も考えてサラダも大量に作る予定だ。にしても、揚げ物だって少なくは無いから油が飛び散りそうで怖いなぁ。特に料理に不慣れなトリオは勿論、女の子の朋と桜乃ちゃんには絶対に怪我してほしくない。



「出来た?」



私が勝手な心配事を胸に抱えながら皆に問いかけると、一斉に肯定が返ってきたから次は食器を夕食場に運ぶことにした。氷帝主催の合宿所なだけあって食器も高そうだ。気を付けて運ばなくちゃ。



「お味噌汁の具はわかめで良かったですか?」

「はい、大丈夫です。すみません手伝ってもらっちゃって…」

「これくらいお安い御用ですよ。なんならこれから担当しますよ?」

「本当ですか?助かります、ありがとうございます」



とそこで、此処で働いている人が味噌汁が入った鍋を持って来てくれた。有難すぎる気遣いに心底感謝する。今も尚不安要素が満載なこの合宿だけど、周りに優しい人が多いおかげで上手くやり過ごせているようなものだ。



「じゃあ、割らないように気をつけて運んでね」

「はーい!」



そうとなれば恩返しをすべく、私は自分の仕事を全うするのみ。今一度そう決意をしてから、私は皆と同じように食器を運び出した。夕食まで、あと少し。



***



「腹減って動けねぇよー…」

「ほんっとよく食うんだなーお前」



練習が終わり、お腹を空かせた状態で夕食場へ向かっているメンバー。やはり中学からのライバル同士ということで馴染みがあるせいか、丸井と黒羽のように学校関係なく向かっているメンバーも多い。



「激辛料理とか作ってくれてるかな?」

「それは流石にないと思うけどなぁ。不二専用になっちゃうよ」

「ほんまや、食えへんっちゅーに」



笑顔の不二にツッコむのは佐伯と白石で、もっともな発言にそれを聞いていた周りも笑う。



「この人数分をアイツらだけで作れたのか?」

「ウチのマネージャーを見くびってもらっては困るなぁ、手塚よ」



無自覚な過保護には流石の手塚も押し黙る。



「これで料理とか上手かったら先輩本気で惚れるんじゃないッスか?」

「口を慎みたまえ!」

「赤也、人の事言えたタマじゃないじゃろ」



傍らでは柳生をからかう切原の姿があったが、更に核心をついた仁王の一言により硬直してしまった。地雷を踏む、というのはまさにこのことである。

楽しみなのは夕食だけか、他のものか。それぞれが何かを心待ちにして、夕食場へ向かっていた。
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