「よ。背伸びたんじゃねえのか?」

「もう、そんな久しぶりじゃないでしょー」

「冗談だって」



ちょっとお洒落にきめて来いよ、と事前に言われ着いた場所は、優兄の仕事先の近くにあるホテルだった。此処のディナーを前々から食べてみたかったらしく、今日出張から帰って来てようやくお休みが貰えたから私を誘ったとの事だ。



「こういう時に着いて来てくれる女の人がいればいいのにね」

「モデル連れて歩いてるってだけでも自慢だろ!いやまぁお前は中身ただの子供だけど」

「失礼だよ!」



普通の人に言われたらちょっと首を傾げちゃいそうな言葉も、優兄だから冗談で返せる。そうして中に入ってレストランに着けば、あらかじめ予約をしておいたのか混んでるにも関わらずすぐに入れた。しかも夜景が見える個室。本当に違う女の人と此処来るべきだよ、優兄。



「もうお前も卒業だな」

「早かったね」

「職員室まで着いて行った事思い出すわー。あのもっさい格好でな」

「言っとくけど学校ではまだあのままだからね」

「あ、そっか。お前らしいわ」



個室のおかげで、混んでる店内の喧騒は此処まで聞こえて来なくて居心地が良い。最初に運ばれて来たドリンクを受け取り、軽く頭を下げて店員さんにお礼を言うと、私の顔を見るなり目を見開いて驚きを露わにされた。でもそれは一瞬の事で、すぐににこやかな営業スマイルに変わり「応援しています」とだけ言われ去って行く。



「お前も有名になったもんだなー」

「そんな自覚は全然無いんだけど。あの店員さん若かったからじゃない?」

「どの年代にも知られるほど有名になりたい、っつー願望はあんのか?」

「うーん、この仕事やってるからにはそりゃあどんどん上に行きたいけど。細かい事はよく分からない」

「そっか」



そういえば、氷帝に転入して来る前までは割と仕事が生活の中心だったのに、転入して来てからは学校中心になってる気がする。勿論仕事を手抜きにしてるとかじゃなくて、仕事と学校で楽しみが2倍になったというか、そんな感じだ。



「転入して正解だったな」

「優兄もそう思う?」

「おう。前の学校も楽しそうじゃなかったって訳じゃねえけど、氷帝に来てからはいっつも笑ってる」



こんな風に、私の学校生活を改めて話すのは久しぶりだ。皆の事はしょっちゅう話すのに、自分の事はあんまりまともに話してなかった。



「あ、そういえば大学も推薦取れたんだろ?」

「そうそう、無事に頂けました」

「んじゃ今日はそのお祝いっつー事で」

「後付け感否めないけどね、ありがとう」



それからすぐにメインも来て、美味しいご飯と一緒に私達はいつも以上に会話に花を咲かせた。とはいえ結局は皆の話に戻っちゃう所が笑える。でも優兄もいい加減それに慣れてくれたのか、黙って笑いながら色んな話を聞いてくれた。



「あ、そういえばお前に会って最初に言おうとしてた事あったんだ。忘れてた」

「何?」

「今日、空港で景吾見たぞ」



そこで出た名前に、食べていたデザートと共に思いっ切りむせてしまった。その反応があまりにも分かりやすかったのか、それとも前から気付いていたのか、優兄は「やっぱりな」と私に紙ナプキンを差し出しながら苦笑している。



「いっつもうるせえくらい景吾の名前出すのに、今日は全く出ねえと思ったら。なんかあったのか?」

「…うん」



此処まで言われたら白状しない他無いので、最後の一口を食べた後に最近景吾と連絡が取れない事をぽつぽつと話し始める。そうするとどうにも止まらなくなって、前のお泊まりの時に抱いた違和感や、自分の中でちょっとよく分からない気持ちがある事も、全部優兄に吐き出すように伝えた。



「そこまで感じてて気付かないのも凄い話だな」

「何が?」

「いや。でも、それがなんなのかはやっぱ俺からは言えねえわ」

「そっか」

「安心しろ、知る日も近いだろうから」

「うん。ねえ、景吾に会ったのって国内線?国際線?」

「俺は国内線だったけど、あいつは国際線ゲートから出て来た。キャリーも結構デカいの持ってたし海外行ってたので間違いねぇよ。すぐ行っちまったから話しかける暇なかったけど、何してんだろうなあいつ」



自分の気持ちがなんなのかはさておき、景吾について少しの情報でも貰えただけで充分だ。今日帰って来たなら、家に帰ってから何回も電話をかければ、いい加減応じてくれるかもしれない。

そう思うといてもたってもいられなくなって、別れの言葉もなあなあに優兄とは別れた。早く会いたい、せめて声だけでも聞きたい。そう思い始めると、なんだか鼻の奥がつうんとしてきた。
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