「相変わらずだなあの大型犬は」 「まとめるこっちの気にもなってほしいです」 2年生も家に着きパーティーに合流すると、いよいよ奴らのテンションは最高潮となった。デザートを食ったかと思えばまた主食に戻りの繰り返しで、よくもまぁ飽きねぇなともはや感心の域まで達する。そんな中俺は、自分の分を皿に盛り付けて輪から回避している日吉に近寄った。 「部活の方はどうだ」 「特に心配はいりません。貴方達がいなくなったおかげでギャラリーもだいぶ減って、むしろやりやすいですよ」 「お前らしい答えだな」 会う度にしっぽを振ってくる鳳のように、こいつがそんな素直になる事はハナから期待しちゃいない。むしろそんな事されたら熱があるのか疑うくらいだ。そうして俺も手に持っていたドリンクに口を付け、2人で奴らに目を向ける。 「跡部さんこそどうなんですか」 「何がだ」 「もう俺を含めた他の人達も、見守るモードに入ってると思いますけど」 日吉から言われるとは思っていなかっただけに、一瞬自分でも分かりやすいくらい動きが止まる。そうなれば自然に視線は1人に絞られ、また言葉では言い表せない感情が疼いてくる。 なんとなくだが、奴らが泉から身を引いた感じがしなくもないのは勘付いていた。長い間過ごしているうちにその感情が違うものに変化したのか、その辺りはよく知らねぇが、特に忍足なんかは以前のように張り合ってくる事は全くと言って良いほど無くなった。 「負けず嫌いのお前達が一体どういう風の吹き回しだ。というか、俺だってあいつの気持ちは知らねぇよ」 「鈍感にも程がありますからね。俺だって知らないですけど、傍目から見たらそういう感じには見えますよ」 「お前も少しは先輩を立てる術を身に付けたか」 「俺は本音しか言いません」 やけに真剣な目を向けて来るのは、話題が話題だからか。 「大学も一緒だからって油断してると、機会見逃しますよ」 後輩に言われるのも癪なもんだが、今の俺にそれに返す言葉は思いつかなかった。油断なんてしてる暇、全くねぇよ。 *** 「あれ?まだ起きてたの?」 「こっちの台詞だ」 晩餐会と言って良いくらいの晩御飯が終わって、2年生の3人は明日も部活だから帰り、残りの私達はそのままお泊まりしている。またゲームやらなんやらで盛り上がった後は流石に皆疲れて、22時には確か全員寝ていたはずだ。 そうして夜中の1時に目が覚めてベランダに出ると、そこには先客がいた。日中でも肌寒い外は夜中になるとかなり冷えて、近くにある毛布を適当に手に取る。 「そんな薄着で何してるの。はい、毛布」 「ん」 ついでに景吾もいれて一緒に毛布を羽織ると、思った以上に距離が近くなってしまった。自分でやった事なのに変にそわそわした気持ちになって、あぁまた出た。景吾の近くに来ると最近起こるこの現象。心臓が痛い。 「東京の空は汚いねー、星1つ見えないや。合宿の時はあんなに綺麗だったのに」 「あれも半年くらい前か」 「早いなぁ本当に」 空は汚いけど空気は澄んでいて、すーっと深呼吸してみる。目は完全に冴えていて、ふと横を見ると月明かりに照らされた景吾の横顔がそこにはある。 「皆凄く楽しそうだったね」 「お前はどうなんだ」 「当たり前でしょ、楽しすぎたよ」 「なら良い」 私達が喋らなければ中から誰かのイビキや寝言が耳に入り、それを聞いて2人で笑う。喋らなくてもなんとなく分かり合えるこの柔らかい空間が、なんだか妙に落ち着く。 「何があっても信じてくれるか」 「え?どうしたのいきなり。そりゃあ信じるけどさ」 「待っててくれるか」 「景吾?」 緩んでいた表情が次第に締まり、それから寂しそうな表情に変わる。見た事の無いその変化に不安になって名前を呼ぶと、まず両手が頬に当てられて、そのままゆっくりと抱き締められた。 「待ってて欲しい」 弱々しく、まるで懇願するように言われたその言葉に、私はどう返して良いのか分からなかった。でも不安にだけはさせたくなくて勢いよく頷けば、抱き締める力がより一層強まった。やっぱり、心臓が痛い。 |