どうか今だけは

「UNO!あがりー!」



1番乗りでUNOをあがった向日は、カードを撒き散らせ子供のように喜びを露わにしている。既に5回戦目のこれでようやく1番乗りになれたのがよっぽど嬉しいらしいが、それに付き合わされた他の者は良い迷惑に違いない。



「んじゃもう岳人あがったから良いだろ。俺ゲームしてぇ」

「なんだよ宍戸!負け惜しみか?」

「流石に俺も飽きたC」

「どいつもこいつもマイペースやなぁ」



そうしてUNOは早々に片付けられ、次はゲームに手をつけはじめる。その中でも滝は本を読んでいたり、忍足は携帯を弄り始めたりと、相変わらず自由な空間がそこにはあった。

1月某日の跡部邸は、今日も彼らによって占領されている。



「今月で此処来るの何回目だろう」

「皆よく予定合うよねー」



勿論その中には香月と泉もおり、2人は騒ぐ彼らを遠巻きに部屋の隅から見守っていた。家主である跡部は下の階に行っているのか、今この場にはいない。

年が明け3学期に入り、登校日が月に数回程度になった彼らは暇さえあれば跡部の家に集合している。全員氷帝大学への推薦も無事取れたので、受験に悩まされる事の無いこの休みは彼らにとっては遊びの期間でしかない。



「そういうあんただって、仕事は?」

「次は明後日。まだ学生だし、そんなめちゃくちゃ忙しくはされないよ」

「泉もゲームしよー!」



2人が話している間に割り込んで来た芥川は、ちゃっかり泉の膝を枕にしながらコントロールを器用に弄り始めた。誘われたからには彼女もコントロールを手にするが、こういった分野には全くの不慣れな彼女が上手く出来るはずも無い。



「泉、ゲームのセンスは絶望的だね」

「自分でも分かってるから言わないで下さい萩之介さーん」



結局ゲームはすぐに終わり、自然と輪になるように座る形になった彼らは、あれやこれやと高級菓子を片手にぺちゃくちゃ話し始めた。



「ていうかもう卒業とか考えられねーよなぁ。跡部んちもなんか知らねぇけど来週から来れないっぽいし」

「何あるんやろな。本人全く言おうとせえへんけど」

「家主が決めた事だから仕方ないよね。俺達は従おう」

「そうだね。それにしても、卒業かぁ」



泉がなんとなく呟いた言葉は、跡部の広すぎる自室に大きく響き渡った。そして少しの沈黙が走る。



「まぁ結局学科は違えど私ら全員氷帝大だし、代わり映えしなさそう」

「でも全く、って訳にはいかないC」

「お前ら何シケた面してんだ」



彼ららしからぬ静けさをドアの外からでも感じたのか、跡部は部屋に戻って来るなり開口一番そう言った。話を聞かずとも場の空気だけで雰囲気を読める所は流石である。



「卒業目前にセンチメンタルになっとるみたいや」

「侑士がセンチメンタルとか言うとなんかきめぇ!」

「言葉の暴力反対やで」

「確かにきめぇな。でもそんな事気にしてるお前らもアホだろ」



ソファに勢いよく腰掛け、彼らの視線を一身に受けながら再び話し出す。



「こんだけ暇さえありゃ一緒にいんのに、今更変わりやしねえよ。それこそ一緒の大学じゃなくてもな」

「良い事言うねぇ、跡部」

「あとべー!俺あとべ大好きー!」

「んま、正論には違いねぇだろ」



彼らだけでは収まらなかったものも、跡部のたった一言で収集がついてしまう所は感心せざるを得ない。そんな気持ちで泉がぼーっと彼の顔を見つめていると、ふいに目が合い、しかしどちらからともなくそれは逸らされた。



「それよりお前ら、そろそろ飯の準備が出来てる」

「よっしゃ!今日のメニューなんだよ?」

「行ってからのお楽しみだな」



いつもは適当に答えるのに、そう向日の質問をかわした跡部に全員が首を傾げる。しかし当の本人は至って楽しそうで、とりあえずダイニングに向かう足を速める事くらいしか彼らには出来なかった。
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