「やぁ」

「ハギ!やっと会えた!」



宣伝の為に廊下を歩いている途中、少しでも話せないかなと思ってA組を覗くと、入口の傍にちょうど泉が立っていたのですぐに気付いてくれた。嬉しい偶然に思わず頬が緩む。



「浴衣よく似合ってるね、女の子に大人気で大変だったんでしょ?」

「泉のドレス姿には負けるよ。まぁ跡部程じゃないけどね」



そこまで話すと泉は寄って行くか聞いてくれたけど、生憎休憩中では無いのでお断りする。そう考えてみれば今年の学祭は例年よりも忙しかったなぁ。



「あ、たっきーだ!寄ってってよー!」

「ごめんジロー、俺今宣伝中だからすぐ帰るよ」

「Aー!」



噂には聞いていた着ぐるみジローも、学祭中はずっと覚醒しているらしく元気ハツラツだ。此処のクラスの人達は皆忙しいだろうに、2人が集まると残る2人も自然と集まってくる。誰かは言わなくてもわかるだろう。



「さっきは団子ありがとう。美味しかったわ」

「安西さん、跡部にいっぱい買わせてたもんね」

「しまいにはこいつクレープまで買わせやがったからな」



でも勿論4人がサボッていられる間など一瞬で、すぐにクラスメイトに呼ばれ忙しそうに戻って行った。だから俺も宣伝を再開する事にし、A組を後にする。



「また後夜祭でね、バイバイハギ!」

「うん、バイバイ」



少し話せただけでも良かった、なんていうのは女々しすぎるかな。



***



「終わったーーー!」



生徒達の声が幾重にもなったそれは、15時ちょうどに教室中に響き渡った。学祭2日目、生徒公開日もようやく終了し、この後片付けをしたのちの18時からは後夜祭が開催される。両日とも大盛況だったA組はその分疲れも多いだろうが、彼らの中でそれを態度に表している者は見られなかった。



「やっと終わったんだねぇ」

「もう立ちっ放しで疲れた!寝たい!」

「あはは、安西が俺みたいな事言ってるー!」

「お前は宣言する前に寝るだろ」



拍手が鳴り響く中、4人は椅子に座って余ったジュースに口を付けている。クラスで1番貢献したのは間違いなく彼らなので、ようやく終わって一安心という所だろうか。とそこで、実行委員の掛け声が再度耳に入る。



「皆で写真撮りましょー!」



よく通る声をしているおかげか生徒達はすぐに黒板前に集まり、実行委員はカメラのセルフタイマーをセットする。



「折角だしこの衣装に合わせて撮るか」

「え?」



泉は隣に立っている跡部の言葉に首を傾げたが、シャッターが切られるまで残り1秒になった時、ふいに彼女の体は引っ張られた。カシャ、とカメラの音が鳴った後は肩に添えられていた手も離れ、立ち位置も元通りに戻る。



「さっさと片付けるぞ」



それをやってきた張本人は何事も無かったかのようにそう言い前を歩き始めたが、泉は返事をするまでに少しの間を要した。そして、自覚したのちに火照り始めた頬は、しばらく収まりそうになかった。
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