「あー、人混みやだなぁ。真田、ちょっと蹴散らしてきてよ」

「し、しかしだな」

「精市、あまり弦一郎をいじめるな。まともにしか受け止めないぞこいつは」

「え?俺本気で言ったんだけど」



笑顔でさらっと言いのける精市にもいい加減慣れたが、他校に来てまでそれを振り撒くのはどうかと思う。しかしこれを本人に言う程俺も馬鹿ではないので、困惑している弦一郎は放っておき更に校舎内へと足を踏み入れた。ちなみに校舎内というのは今日は立海では無く、氷帝を指している。



「すっげー、やることが違うっすね」

「なんかよー、立海と大きさはあんま変わんねぇけどこう、高級感っつーの?」

「庶民派の俺達には慣れないナリ」

「それはあるな」



校門の装飾も充分凄かったが、校内に入るとそれはより一層煌びやかさを増した。各クラス気合いの入り方が尋常じゃなく、また、金のかけ方もしかりだ。



「幸村君、泉って何組だったっけ?」

「A組だよ。ジャッカル、何階か調べて」

「あぁ」



それからはジャッカルを先頭に歩き始め数分後、辿り着いた教室前は一般人、生徒の両方でごった返していた。予想など立てなくてもこうなっているのは分かり切っていたが、改めてみると凄い。しかし丸井と赤也はその人混みなど諸共せず、当たり前のように間をかき分けて行った。その調子だ。



「泉さーーん!遊びましょーー!」



突然の大声に教室内にいた全員が振り向く。流石にそれは無茶だと思うぞ、と赤也に言おうとした矢先、真っ白な影が俺の視界に入った。



「ええ!?泉お前どうしたんだよ!?」

「なんじゃ、Miuになっとるんか」

「来てくれてありがとう!これについては触れないで下さい」



…コスプレ喫茶と聞いた時点でもしやとは思っていたが、実現するとは。客層に男もいる疑問がようやく晴れた瞬間だった。跡部1人でも相当客引き出来るだろうに、そこに朝倉、もといMiuもとなれば此処まで混むのにも納得がいった。すっかり興奮している赤也達は好き勝手に写真を撮り始めていて、しばらく固まっていた精市もようやく動き出す(俺が気付いてないとでも思ったか)。



「食べちゃいたくなるくらい可愛いね」

「ゆ、幸村君!女性に向かって何て事を!」

「勝手に変な方向に変換するんじゃなかこの変態」

「食べられるのはちょっと嫌だなぁ」

「つーか泉さん、休憩無いんすか休憩!」



赤也の問いかけに朝倉は確認の為俺達の元を一度離れ、宝塚風の安西と話してからまた戻って来た。安西の鬱陶しそうな視線が分かりやすすぎて思わず笑いそうになる。



「今出てっても大丈夫だって。あんまり長くは居れないと思うけど」

「いよっしゃああああ!早速行こうぜぃ!」

「え、ちょ」

「丸井、服装を考えろ。引っ張るな」



確率的には五分五分だったが、そういう事らしいので俺達は遠慮なく朝倉を連れ出す事にした。辺りからの盛大な視線の数々は無視し、転びそうになった小さな体を後ろから支える。



「ありがとう」

「よく似合ってる」

「…ありがとう」



賑やかな所はあまり好きではないが、この照れたような笑顔を見れるならそれもたまにはいいのかもしれない。



「行っちゃったねー。休憩あげない方がよかった?」

「黙れ香月」
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