驚きの連続

「ほっえー、やっぱりでっかいにゃー!」

「あっ、焼き鳥あるっすよ!」

「菊丸、桃城、あまり騒ぎ回るな」

「氷帝に来るのは中等部以来だね」

「相変わらず派手っすね」



英二、桃、手塚、越前、それに僕を含め5人は、泉のお誘いで氷帝の学祭に来た。他の皆も来たかったみたいだけど、それぞれ用事があるみたいで今日は僕達だけとなっている。途絶えない客足を見る限り校内も相当混んでいるだろうし、事前に聞いていたクラスに向かって僕達は足を進め始めた。確かA組だったはずだ。



「ありましたよー!」

「何すかこの長蛇の列」

「これ相当待つ事になりそうだにゃー」

「とても並んで入る気にはならないな」

「うーん、とりあえず入り口覗いてみようか」



でも、辿り着くなり目に入った溢れんばかりの人だかりには、流石に苦笑して立ち尽くすほかなかった。それでもそうしている時間が勿体無いので、せめて挨拶だけでもしようと教室内を覗く、

と。



「あっれー朝倉ちゃん何処にゃ?」

「いらっしゃいませ!久しぶりだね!」

「えっ?」



僕の前にいる英二は、泉に話しかけられるなり目を真ん丸にして固まった。アイドル好きな英二が彼女を知らないはずがなくて、更にそれはファッションに敏感な姉を持っている僕にも言える事で、同じように一瞬言葉に詰まる。



「…メールで驚かせちゃうかもしれないって言ってたのは、こういう事かい?」

「あ、そうだ私今、そうだった」



今更気付いたように自分の格好を見返す感じは、確かに泉らしい。一向に動こうとしない僕と英二を不審に思った桃と越前は、隙間を縫うように入り込んで来たかと思うと、やっぱり同じように動きを止めた。揃いも揃って同じ反応をしたからか泉は笑ったけど、僕達はそれどころじゃないの気付いてるのかな、この子。



「え…えぇー!?」

「特別ゲストでも呼んでるんすかこのクラス!?」

「あの猿山の大将ならやりそうだけど」

「違う違う、私です」



弾けたように2人が騒ぎ始めれば、困った笑顔で改めて自己紹介を始める。そんな仕草にも見覚えがあって、雑誌やテレビから抜けて来たこの女の子は、本当に僕達の知り合いの泉だった。壁に背を預け腕を組んでいる手塚も、ポーカーフェイスを保っているように見えて少し動揺してるのが窺える。



「青学ようやく来たか。手塚、久しぶりじゃねえか」

「相変わらずだな跡部」



訳も分からぬまま跡部も登場して、泉とテーマを合わせたかのような衣装にちょっとつまらない気持ちになる。でもそれは表には出さない。



「本当に驚いたけど、本当に綺麗だ。似合ってるよ」

「ありがとう。メールで言って頭おかしい人だと思われても嫌だったから」

「そんな事思う訳無いじゃないっすか」

「秘密にしててごめんね。これからもよろしくしてくれると嬉しい」



控えめな態度も柔らかい口調も、何1つ変わっちゃいない。だから僕もそのままの態度で努めようと思うけど、この衣装は流石に反則じゃないかなぁ。そう思ったのは越前も一緒だったみたいで、僕と目が合うなり小声で「やられましたね」と呟いて来た。本当にね。



「まぁ座ってけよ」

「折角だが、順番を抜かす訳にはいかないので遠慮させてもらう」

「堅さも健在ってか。今日はもう入れねぇと思うがな」

「とりあえず顔見れただけでも良しとしておくよ。今更だけど、コスプレ喫茶かい?」

「ご察しの通りです」



手塚の言う通り、これ以上並んでいる人達を抜かして二枚看板と話し続けてるのもなんだから、僕達は違う場所をまわる事に決めた。思わぬ収穫というにはでかすぎるというか、興味深すぎるというか。
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