「どらぁあぁあっ!」

「宍戸さん!?」

「長太郎!チンタラしてんじゃねぇぞ!」

「は、はいー!」



周りが若干引いてるのも長太郎がビビッてるのも勿論わかってるが、こうでもしてねぇと自分の気持ちを紛らわせねぇ。まさかテニスに対し公私混同など自分がするとは思っていなかっただけに、この事は悔しいし何より恥ずかしかった。でも仕方ねぇだろ!と結局はヤケクソに行き着くあたり、まだまだ動揺している事を自覚させられる。

そんな思いで俺が半ば打ったボールは、見事なホームランをかましやがった。あ、という間抜けた声が長太郎と重なる。そうしてボールが飛んで行った虚しい音を聞いて、やっと我に返る。



「…取ってくるついでに頭冷やしてくる」

「わかりました」



とりあえずボールを取りに行く為に長太郎にそう言えば、心底不安そうな顔で送り出された。後輩に心配かけるなんてマジで激ダサだな。今ので目覚めたし、気合入れ直さねぇと。



「…わっけわかんね」



そもそもはアイツらがいつでも何処でも朝倉の話をするから悪いのだ。だから俺まで頻繁にアイツの事を思い出すようになっちまったし、その最中さっきの状況に陥れば誰でも考えが混乱するに決まってる。

しょうもねぇ悩みが頭の中で無限ループして、自分で自分がわからなくなった。誰かループ断ち切ってくれよ、と柄にもなく真剣に思ったが、そんな事をしてくれる親切な奴は少なくとも俺の周りにはいない。



***



「変なやっちゃなぁ」

「んー…?」

「お、ジローここにおったんか」



部活中、腕を組みながら独り言を呟いた忍足に反応したのは、近くで横たわり寝ていた芥川だった。人目のつかない所にいるつもりだったので、茂みから彼がゴロンと出てきた事には苦笑せざるを得ない。



「うーん…?なにが変なの?」

「あれや」



しかしそんな事を芥川が気にするはずも無く、彼は相変わらず眠たげな声で忍足に問いかけた。そうして忍足が指を差した先には、大木に自分の頭を打ちつけている宍戸の姿があった。小さな声でクソッ!ちげぇ!、とまで聞こえ、そのあまりの奇怪さには芥川までもが沈黙している。



「と、止めるべき?」

「…せやな」



一向に収まらない様子を見て2人はいよいよ駆け寄った。



「俺は認めねー!」

「宍戸、やめ」

「怪しいC!」



2人がかりで宍戸の体を押さえ顔を見ると、彼の額は真っ赤に変色している。このままいけば傷が付いてもおかしくなかっただろう。



「何があったん?」

「部活熱心な宍戸がこんなところで道草くってるなんて珍しいC」



とりあえずそう宍戸に聞く2人の表情は珍しく真剣だ。それもそのはず、芥川の言う通りあの部活熱心な宍戸がテニスをせずにこんな事をしているのだから無理も無い。

詰め寄られた宍戸は荒い呼吸を整えた後、チラリと2人を見やってからまた目を逸らし、最後に小さく呟いた。



「…誰かを好きになるとか、俺にはまだわかんねーよ」

「は?」

「しっ…宍戸が恋ーー!?」



まさかの返答に2人は驚きを隠す事が出来なかった。中でも、芥川の叫び声はその場に大きく木霊した。今日の部活は、まともには行われなさそうだ。
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