「お疲れさまでしたー!」



午後8時。撮影がやっと終わって楽屋に入るなり、私は思わず床に倒れるように横たわった。こんな風に学祭準備と撮影が重なると、どうしても疲れが倍になっちゃう。



「お疲れね。はい、ココア」

「ありがとうございます」



そこに北野さんが入ってきて、いつも仕事終わりに出してくれるドリンクを有難く受け取る。今日のドリンクは体が暖まるココアだ。その暖かさが生み出した心地よさが、更に睡魔まで生み出した。此処では流石に寝てられないのになー。



「1週間後、学祭なんだっけ?」

「そうなんですよ。だから今凄い忙しくて」

「泉のクラスは何するの?」

「定番ですけど、コスプレ喫茶です」

「あーあ、その日打ち合わせなかったら行ってるのに」

「来て欲しかったですよー」



北野さんが学校にいる姿も何か想像し難いけど、来て欲しかったのは本心。香月とか景吾達の事も紹介したかったし、残念。また次の機会までお預けだ。



「もう正体学校にバレてるって事は、色んな人が来るかもしれないからね」

「あぁ…そういう心配してませんでした」

「誰がどんな目的で何をしてくるかわからないから気を付けなさいよ」

「肝に銘じておきます」



それからまた少し談笑して、いつの間にか午後9時になって。明日も学校だしそろそろ帰ろうと思った私は話を切り上げて帰る支度をし、そのまま北野さんの車で家まで帰った。甘えた事言ってないで頑張りますか!



***



「今日は衣装合わせをしまーす!売り子も厨房も皆それぞれ衣装があるので、女子は女子更衣室に移動、男子は教室で各自合わせてくださーい!」



実行委員の言葉で生徒達の大移動が始まり、泉の隣には彼女の衣装担当である山口が並ぶ。彼女の衣装は1人で着るには大変らしく、その手伝いを山口がかって出たという状況だ。



「何か泉の衣装入ってる袋大きくない?」

「ふふーん!最高傑作ですもん。安西さんは絶対似合うね、そのスーツ。着なくてもわかるよ」

「ん、ありがと」



鼻を高くして言う山口に、泉と香月は微笑ましそうに口角を上げる。ちなみに香月が手に持っている黒を基調としたスーツは跡部とお揃いの物で、コスプレというだけあってか所々に飾りがあしらわれている。



「ごめんね、作るの大変だったでしょ?」

「別に1から全部作った訳でもないし、費用は学校から出たしねー。朝倉さんがこれを着た姿を思い浮かべたら光の速さで手が進んだわ!」

「大袈裟だよー」



そんな会話をしていたらすぐに更衣室に着き、彼女達は着替え始めた。いよいよお披露目の時である。



***



「うっわ跡部かっけー!ジロー可愛いー!」

「俺かわE!?やったーうれCー!ありがとー!」

「当然だろ」



一方、こちらは教室。調理担当の者達の衣装は統一されており、白のYシャツに黒ズボン、それに女子は紅色、男子は黒のサロンを腰に巻くというシンプルなスタイルとなっている。

勿論芥川と跡部は厨房ではなく売り子に回っているのだが、そんな2人が周りの男子から賞賛を受けた衣装。それは、芥川はモコモコ素材で出来ている羊の着ぐるみ、跡部は香月とお揃いの黒スーツだった。跡部に至っては胸元のポケットに彼らしい一輪のバラが刺さっている。



「がっくんが言ってた衣装、本当になっちゃったね」

「だな」

「いやー、俺跡部みたいなホストいたら絶対めっちゃ貢ぐ」

「俺も俺も」

「何なら相手してやってもいいんだぜ?」

「「キャー!!」」

「嘘だっつーの、うぜぇよお前ら」



男子の悪ノリに笑いながら答える跡部。それを遠巻きに見ていた男子もここぞとばかりに沸き、更には自分達も衣装を着た事で気持ちが舞い上がったのか、いつもより賑やかな声が教室に響いた。



「入りますよー!」



とその時、着替えから帰ってきた女子達が実行委員を筆頭に戻って来た。男子と比べれば華やかさは断然上で、思春期なだけあってか教室中の熱気が更に上がる。



「あとべ、あれやばいね」

「…言われなくても分かってんだよ」



しかし、2人の目に入る人物はただ1人。
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