「うーんどうしよう、こっちも良いけどこっちも捨てがたいなぁ」

「あ、あの?山口さん?」



放課後も大賑わいな学祭準備期間。こんなに手間がかかっている準備なんて初めてで、テキパキと動く皆にはちょっと着いて行けない時もある。ちなみに今日はまだ教室内の装飾はしておらず、朝のLHRで決まった衣装担当の子達が、クラスの皆それぞれに似合う衣装を見定めている。

で、私の担当は山口さんなんだけども。



「山口さん、いつの間にそんなにデザイン書いたの?」

「授業中に決まってるじゃない!朝倉さんの為に今日の授業全部使ったわ!」



何故か物凄く張り切っている彼女にちょっとびっくり。他の担当の子達はまだイメージの段階なのに、山口さんに至っては既に5枚以上のデザイン画を描き上げているんだもの。そういえば今日1日中凄い勢いで机に向かってたなぁ、と思い返す。



「私、朝倉さんがMiuって聞いた時マジでびっくりした」



そこで唐突に話題を変えられ、思わず肩が強張る。



「でも、同時にこの日が待ち遠しくて仕方なかったんだよね」

「この日が?」

「そう!有名なモデルの衣装を考えられるなんて早々無いじゃん。私将来デザイナーになりたいんだ。こんな機会滅多に無いから、今マジで楽しい」



山口さんは度々、校則違反で制服の着崩しやネイルなどを注意されているのを見た事がある。でも、どれもこれも全部センスが良くて、校則とは分かっていてもそれを規制するのは勿体無いなぁとひそかに思っていた。その理由がここにあったのを今聞けて、何より彼女の嬉しそうな顔を見てこっちまで幸せな気分になれた。



「だから、面倒かも知れないけど協力してね!」

「ありがとうね、山口さん」

「私こそ」



たかが学祭、されど学祭。あんまりコスプレには協力的じゃなかった事など、今じゃすっかり頭の中から消え去っていた。単純と言われても、それで楽しいならいいんです。



***



「とりあえず可愛い子ランキングだろ!」

「そんなん朝倉さんに決まってんじゃん」

「まぁなー」



クラスメイトのそんな会話を小耳に挟み、気になったからそっちに意識を傾ける。



「マジで可愛いよなーMiu」

「朝倉さん学祭の時だけMiuになってくんねぇかなぁ」

「生徒会の意見箱に出してこようぜ!」

「えーでも跡部様朝倉さんに過保護じゃん。許してくれるかな?」



続けられた内容には思わず笑いがこぼれそうになり、そこは得意のポーカーフェイスでなんとか抑えた。にしても、跡部の過保護が一般生徒から見ても分かるてどないやねん。俺が1人でおかしくて堪らんくなっとるのをクラスメイトが知る由も無く、更に他の奴もそれに参加し始めた。



「俺学祭の時ぜってー一緒に写真撮る!」

「ずるい、私もー!」

「雑誌の中にいる遠かった存在がこんなに近くなるなんて、何か嬉しいよね」

「わかるー、しかも悪い噂とか聞かねぇしな」



そら根がええ子やからな、とツッコんでもうた自分も、もしかしたら跡部とあんま大差あらへんのやろか。…いやそれは嫌やな。ちゅー事で俺はそろそろ部活に行く為に、もといこれ以上鼻を高くせえへん為に、実行委員を告げて教室を後にした。



「あ、宍戸やん」

「おー。お前ももう引き上げか」

「他の奴らに任せたわ」



廊下に出ればちょうど宍戸がおって、そのまま足並みを揃えて歩き始める。



「宍戸君は不器用だからこの作業は駄目!だってよ」

「自分のクラスの女子も勝ち気なのが多いなぁ」

「だから俺は力仕事専門だ」



通りすぎる教室に目を通しても、まだ話し合いを進めとるクラス、既に装飾に取り掛かっとるクラスなど、それぞれ雰囲気がまるで違うた。浮かれとる訳じゃないけど、去年よりは楽しくなりそうやなぁくらいの気持ちで期待しときましょか。
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