「へぇー、皆色んなのやるんだね」



今日は天気が良いから屋上でご飯を食べているけど、話題の中心は決まって学祭の事ばかりだ。皆に何を出店するのか聞いてみれば、個性的なのから王道なのまで色々な案が出て来た。



「それより先輩はどんなコスプレするんですか?俺デジカメ持参で張り切って行きます!指名は勿論有りですよね?」

「落ち着け」



相変わらずの鳳君を、日吉君が顔面を片手で抑えて容赦なく止める。それでもめげないんだから凄いなぁ、とか他人事にしちゃってるのは彼には言えない。ごめんね鳳君。



「何を着るとかはまだ決まってないよ。香月と景吾はもう決まったけどね」

「満場一致だったC!」

「へぇ、何だよ?」

「「スーツ!」」



宍戸君の問いかけにテンションが上がって、思わずジローと声が揃った。特に香月に至っては宝塚風に仕上げるらしく、つまり男装する事が決まっている。もう只でさえ格好良いのにそんなの似合うに決まってるし、これには流石の私も興奮を隠せなかった。あぁ早く見たい!



「そらまた狙いにいったなぁ。跡部は勿論、安西さんも髪型変えたら完全ホストやん」

「本当悪ノリがすぎるわ、うちのクラス」

「俺は別に構わねぇがな」



未だに勘弁して、って頭を垂れている香月とは対照的に、景吾は何でもどんと来いって感じだ。最初はだるそうだったのに、持ち上げられるとなんだかんだ張り切っちゃう所が可愛いなぁ。



「ジローはあれだよな、羊の着ぐるみとか着させられそう」

「あ、がっくん名案ー。気持ちよさそうだからそれでいいや」

「そのまま寝ちゃわないでね」



果たして私は何を着せられるんだろう。



***



「跡部会長、この資料に目通して貰えますか?」

「あぁ、こっちが終わったらすぐに見る」



学祭準備期間。この期間から学祭当日にかけてが、俺がこの学校の生徒会長としてする最後の仕事だ。後は卒業式で代表の言葉を言うくらいで、来月には新しい会長を決める生徒会選挙が開かれる。



「かいちょおぉお!」

「どうし、…大丈夫か」



棚から雪崩のように出てくるプリントを必死に食い止める、この間抜け感がいつまでたっても抜けない副会長が恐らく会長になるだろう。凡ミスは多いが、確かにやる気だけは誰よりもある。



「すみません、ありがとうございます!」

「しっかりしろよ、次期会長」



俺が資料を書く手を止まらせる事なくそう言うと、何故かそれには無言だけが返って来た。いつもは騒がしいくらいうるせえのにどうしたと思い視線を向ければ、奴は急に背筋を伸ばし、数える程しか見た事のねえ真剣な表情を向けて来た。



「僕、ずっと会長に憧れてました」

「いきなりどうした」

「今年に入って、会長は凄く優しくなりました。前ほどあんまり自己中じゃなくなったし」

「言ってくれるじゃねえの」



引っ掛かる言葉があったが今だけは見逃す事にして、話の続きを促す。



「僕、会長みたいな会長になれるよう頑張ります!」

「あぁ。引継ぎまでちゃんとやってやるから、頑張れよ」

「はい!ありがとうございます!」



俺を崇める訳でもなく、ただ純粋に尊敬の眼差しで見てくるこいつに歯痒い思いをした事は、正直言うと何回かあった。だが、そんなこいつだからこそ信用出来る面も沢山ある。あいつらとはまた違うが、生徒会室にこいつと居て億劫に感じた事は無かった。自分の中にこんな穏やかな感情があるなんて、きっとあいつと関わんなきゃ気付かされなかったかもな。というのは口には出さず、とりあえず膨大な資料の量に目を眩ませているこいつを鼻で笑っておいた。
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