「謙也さんほんま空気読めや!今のタイミングでありえへんわ!」

「浪速のスピードスターの方が上やっちゅー話や」

「謙也ー、ワイの方が速いでー!」

「アホか、俺が1位や!」

「ユウ君頑張ってー!」

「俺がこのレースに勝つまで、あと36秒ばい」

「上には上がおる事を教えてやろう」

『銀さんー!?』



息もノリもツッコミもぴったりな皆。



「堪忍な」

「え、何が?」



そんな皆を見て笑っていると、ふと蔵ノ介が話しかけてきた。ちなみに皆が釘付けになっているのは、蔵ノ介が自分の部屋から持ってきたテレビゲームだ。リビングである此処は私達全員が入っても全然狭くない程広くて、金ちゃんが言っていた豪邸というのもあながち間違いじゃない。ていうか豪邸だ。



「何もする事ないやろ?こいつらゲームに夢中やし」

「でも、皆見てたらこっちまで楽しくなっちゃうよ」



常に周りを見てて偉いなぁ、蔵ノ介は。でもこれを口に出せば本人は決まって遠慮するので、あえて心の中で思っておくだけにしておく。



「そういえば、まだ周りに正体隠してんねんな?」



とそこで問われた話題には一瞬言葉を詰まらせつつ、話しておいた方が良いと思うのであのね、と話を切り出す。かなり端折った説明だったけれども、それでも蔵ノ介は最後まで静かに頷きながら聞き入れてくれた。



「大変やったな」

「そうだね、正直大変だった。でもあれのおかげで気付けた事もあるし、今はちゃんと割り切れてるよ」

「そういう所好きやで」

「ありがとう」



話し終わった後も余計な詮索はしてこないで、空になりそうなグラスにサイダーを注ぎ足してくれる。聞き上手はモテ上手というのは本当らしく、そんな蔵ノ介には感謝をせずにはいられなかった。暖かいなぁ。

なんてほっこりモードに入っていられたのも束の間で、ゲームを終えた皆がわらわらと私達の周りに集まって来た。それにまた蔵ノ介と目を合わせて笑う。



「ゲームはやめたの?」

「誰かさんがコントローラーぶっ壊しそうやったからな」

「なんやと!ユウジお前も対外やったやろ!」

「謙也さん黙ってー」



そうすると次は何処からともなくトランプが出て来て、銀さんが配ってくれたかと思うと皆はどんどん同じ数字のカードを真ん中に放り出した。何も言わなくてもババ抜きだと分かってる辺りが仲良しだ。だからそれに私も便乗して、負けた人はわさび入りたこ焼きという罰ゲームを賭けたババ抜きが始まる。



「ちょ、ちょっと待って金ちゃん!こっちのカードの方が良いと思う!」

「そうなん?泉が言うなら…ってえぇええ!?」

「金太郎さんもそろそろ大人にならなきゃいかんわねぇ」



たまには騙しなんかもしてみちゃったりして?



***



「まだ遊び足りんけどしゃあないっすね」

「また近々ね」



楽しい時間はあっという間で、この後の18時の電車で泉は東京に帰る。今は迎えの時同様、全員が大阪駅まで見送りに来ている所だ。



「今度学祭があるから、その時は東京に是非来てね。千里は寝坊しないように!」

「泉に言われちゃ行くしかないけん」

「気を付けて帰りや。なんかあったらすぐ電話するんやで」



各々挨拶を交わしてから改札を通り、姿が見えなくなるまでお互いに手を振り続ける。会うのはこれが最後じゃ無いのは勿論分かっているのだが、別れの瞬間に寂しさが募るのは仕方のない事だ。



「ほんま距離って憎いっすわ」



財前の言葉に何人かは心の底から同意したが、それを素直に言える程まだ大人では無い。結局いつも通り賑やかな雰囲気のまま彼らも帰路に着き、充実した1日は幕を閉じた。次逢う時は、おふざけだけでは終わりませんように。
 3/3 

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