「財前、見すぎやで自分」



横から耳打ちして来た謙也さんは無視しといて、俺の先を歩いとる泉さんにまた視線を移す。捲っとるデニムから伸びてるほっそい足首とか、金ちゃん相手に優しく相手してあげとるとことか、なんちゅーか、どっかの老け副部長じゃあらへんけど、一言で言えばたまらん。そんな感じやった。



「話しかけに行けばええやろ」

「まだあかん。緊張する」

「合宿以来やからなぁ。まぁぼちぼち頑張りや」

「人の応援しとる場合なんすか」



妙に先輩ぶってくる謙也さんにそう言えば、やっぱり図星やったんかすぐに言葉を詰まらせた。だっさー。



「なんで謙也さんと肩並べて2人で歩かなあかんの」

「俺が聞きたいわ!っちゅーか俺はお前を心配して!」

「あーありがとうございますー」

「ほんま可愛くない」



別に可愛い言われても嬉しないしどうでもええわ。でも、ほんまにそろそろ俺も行動に出さなあかんかもしれん。現に部長も調子に乗り始めとるし、俺は未だグダグダうっさい謙也さんをまた無視して泉さんの隣に並んだ。そんで、勢い任せに手を取ってみる。



「泉さんあっち行こ」

「へ」

「大胆になったとねえ、財前」



寝坊したとかでついさっき合流した千歳先輩は、相変わらずよく分からん下駄をカンカン鳴らしながら楽しそうに笑って来た。この人は謙也さんと違ってほんまに余裕そうなのが癪やけど、それも右手にキュ、と力を籠められた事で全部どうでも良くなる。



「お勧めのたこ焼き食べさせてね」

「勿論です」



キャラじゃあらへんのは承知や。でも、たまには行動に出してみるのもええかもしれん。



***



「こらこら、泉で遊ぶんやないて」



白石が呆れながら言い放った先には、頬に沢山の食べ物を詰めている泉の姿があった。彼女をそうさせた張本人である謙也、千歳、一氏はなんの悪気も無く笑いながら写真を撮っている始末であり、これには流石の彼女も不満顔だ。全て咀嚼し飲み込んだ後に口を尖らせる。



「何聞いても食べるて言うんやもん、そらあぁなるわ!」

「それにしても謙也は詰め込み過ぎだよ!」

「ハムスターみたいでかわいかねー」

「ウサギでもええんちゃう?」

「それ褒められてるのか複雑な気分」



背の高い千歳に頭を撫でられている姿はまるで子供のようで、普段はどちらかというと大人っぽい雰囲気を漂わせている泉のそれは新鮮だった。そんなのを彼らが意識している事など露知らず、そこに遠山の声が間に入る。



「なぁなぁ、いつ白石んち行くんや?ワイはよこれ食べたい!」

「金太郎さん、これまた随分買い込んだわねぇ…」



思わず金色までもが困り顔になってしまうそれらは、遠山の体では抱えきれない程の量だった。証拠に隣にいる石田が残りを持たされている。



「金ちゃんはいつまで経っても金ちゃんやなぁ。そんな訳で、もう俺んち行ってもええか?まだ回りたい所あったら行くで」

「大丈夫だよ。もう充分美味しいたこ焼き食べれたし」

「お安い御用っすわあんなの」



目配せと共にそう言われた財前は、先程の行動が引き金になったのかしっかり泉の隣をキープしている。恥ずかしくて声すらかけれない、と言っていた頃に比べれば立派な成長だろう。



「ほな、行きまっか」



そうして一同は白石家に向かう事になり、ゾロゾロと集団で移動を始めた。先頭にいる白石は最早引率の先生の様な気持ちで、しかしそれが彼にとっては何よりも楽しかった。
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