たくさんの思い出

「凄い、なんか異空間だ」

「だな。はぐれないようにしろよ」

「宍戸君、私子供じゃないんだけど」



研修旅行3日目。明日は帰るだけなので実質今日が最終日となる中、彼らは国際通りに足を運んでいる。人の賑わい方がまるでお祭りのようで、普段味わう事の無い雰囲気に彼らはキョロキョロと忙しなく周りを見渡していた。



「!?」

「跡部、びっくりしすぎだよ」



滝のツッコミに全員がつられるように笑う。市場にドン!と置かれている豚の頭は、それだけでも存在感があるというのに、ご丁寧にサングラスまでかけられていた。視線を感じ振り返るなりそんなものがあっては驚くのも無理はないが、それにしても驚きすぎだろう。



「おいジロー、紅芋タルト激安だってよ!」

「空港で食べて以来すっかり虜になってもうたなぁ」

「がっくん買いに行こー!」

「あんまり遠くまで行かないでよ、あんた達すぐいなくなるんだから」



香月が言ったそばから様々な試食につられている子供2人は、恐らくもう誰にも止められないだろう。観光客を相手にするのもお手の物らしく、辺りは何処もかしこも氷帝生で溢れていた。



「なんだありゃ、ボトルにハブが入ってやがるぞ!」

「あれ酒やからな、俺らはまだ飲めへんで」

「皆なら普通に買えそうだけどなぁ」



普通の市場と一味違う此処は、跡部からすると最早未知の世界でしかない。スーパーマーケットでもあれはなんだ、これはなんだと騒ぐのだからこうなる事は容易く予想出来ていたが、いちいち反応するのも体力がいる。



「ていうか、お腹空いた」



という訳で、香月の言葉を合図に彼らは昼食をとる事に決めた。ガイドブックを頼りに安くて美味しい店を探していた彼らだったが、跡部の「俺が全部払うから良い店にしろ」の一言により一同はステーキハウスに辿り着いた。食べ盛りの彼らに肉は1番のご褒美だ。値段も気にしなくて良いのだから、ここぞとばかりに高い所を選ぶのもまぁ頷ける。



「ほ、本当に良いのかな。皆の食べる量考えたら結構いい値段になるんじゃ」

「あとべにお金の心配なんていらないC!」

「お前が言うなジロー。でも実際いらねぇから気にしないで食え」



ぽん、と頭に乗せられた手に、少しの罪悪感を抑えながら笑う。

しかしそんな心配をしていたのも束の間で、数分後には泉も含め全員が美味しい美味しいとステーキを頬張る姿が見られた。



「皆の食べる量、とか言いつつも、お前も対外だぞ」

「…うるさい」



香ばしいステーキの熱さに、体も火照る。
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