「星ちょー綺麗だCー」

「だなー」



芥川と向日は、部屋を抜け出しホテルの裏庭にある芝生に寝そべりながら夜空を見上げていた。忍足、宍戸、滝はそれぞれ違う事をしている為構ってもらえず、香月と泉は部屋まで行ったがもう寝る準備をしていた為同じく構ってもらえず、跡部に至っては居場所さえ掴めず。そんな訳で彼らは2人だけで此処に来ている。



「何かこうやってると切なくなってこない?」

「だなー」

「がっくん、聞いてる?」

「あ、ワリ、星座見てた」

「えっ、わかるの?」

「ぜんっぜんわかんねぇ。夏の合宿の時幸村が教えてくれたの思い出してみたんだけどよ、さっぱり」

「だよねー」



相変わらずの脳天気さに、2人は声を小さく上げて笑った。



「あー、ずっと此処にいてぇな」

「うん、帰りたくなE」

「学祭の3日間が終わったらもう卒業だぜ?」

「寂しい事言わないでよ」



まだ実感するには早いが、ずっと先と言える程遠い未来でも無い。どこかもどかしい感覚に襲われつつもこのまま卒業について話していればもっと気が落ちる事は明白なので、それを避けるように芥川は話題を変えた。



「学祭今年はどうする?泉ミス氷帝に参加するかな?」

「いっやー泉の性格上そういうのには参加しねぇだろ。っつーか勝敗見えすぎじゃね」

「言うねーがっくん」

「だってよ、昔からずっとモデルやってんだぜ?」

「そうだけどさ」



それから2人は出店はあれをやりたいこれをやりたい、ステージ発表は何々をするなど、それぞれ思いを膨らませ存分に語った。



「今は、後のことより目の先にあることを楽しまなきゃだな!」

「うん!」



しんみりとした雰囲気が苦手な2人は最終的にそうまとめ、消灯の1時間前である22時までずっとそこで話し込んでいた。2人は話に夢中になっていた為気付かなかったが、満点の星空に小さな流れ星が1つ流れた。



***



「此処におったんか」

「早くあがれ」

「んな理不尽な」



もう寝るという宍戸・滝とは別に、忍足は1人温泉に入りに来た。消灯時間間近なので人はあまりおらず、これは独り占め出来るかもしれないと半ば心を浮かせていると、大浴場にぽつんと佇んでいる跡部がそこにはいた。話しかけるなり早速暴言を吐かれ、いつもの調子とはいえ苦笑する。



「ジローと岳人が探しとったで」

「何でだ?」

「2人とも外に遊びに行ったんや。俺達は気力なくて行かん言うたら、跡部は何処や!て」

「此処に居て良かった」



子供2人に挟まれれば苦労するのは目に見えてるので、跡部は目を細めながらそう言った。子守も楽では無い。



「ちゅーかどないしたん」

「あ?」

「センチメンタルな雰囲気醸し出しとるで」

「早くあがれ」

「言うの2回目やからなそれ」



そこで忍足が思った事をそのまま問いかけると、気付かれたのが癪だったのか、跡部は手元にあったタオルで殴るという仕草と共に先程の言葉を繰り返した。なんやこれ俺どないすればええの、と彼が若干困っていると、



「あいつ俺の事男として見てなさすぎだろ」



途端に静かになったかと思えば跡部はそう小さく呟いた。しばし何の事かと口を開けていた忍足だが、意味を理解するなり盛大に噴き出す。



「笑うんじゃねぇ!」

「痛いっちゅーに!いやでもこれは自分が悪いで」

「何がだ」

「まぁ、そんな気にせんでも大丈夫やろ」

「あぁ?」

「でも教えたらんわ。あの子に関しては全面的に協力出来る訳ちゃうし」



はっきり言われてしまえば跡部もそれ以上は言及出来ない。そういう所だけ妙に律儀な彼を見て、忍足は再度愉快そうに笑った。

 自分じゃ中々気付かんもんなんやなぁ。

協力は出来ないが、見守ってはいたい。それがどんなにお人好しであるかは百も承知だが、旧知がこうしてあぁだこうだと悩んでいる姿を見るのは、彼の立場からすると中々楽しく、嬉しくもあった。

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