「でっけー…」



子供2人組の言葉が重なると、その場には沈黙が流れた。観光名所なだけあってか、全てのスケールが彼らが今まで見てきたものとは桁違いで、悠々と泳いでいる生き物達につい圧倒される。



「なんか異空間だよね、此処だけ」



泉への返事ですら疎かになっている所からも、彼らがどれだけ感動しているかは手に取るように分かった。それからもゆっくり歩みを進めていくにつれて、今まで見た事が無いような水中生物が次々と現れ、その度に驚きで目を丸くする。



「んなぁみーーち!」



とその時、水族館の係員であろう女性が氷帝生に呼びかけるように大声を出した。が、聞き慣れていない突然の沖縄弁にほぼ全員が困ったように首を傾げる。



「んなぁ、み?」

「めんそーれうちなー!くりからヒィートゥーショーを始めますぬで、どうぞまじゅん着いてきてくぃみそーれー!」

「ひ、ひぃーとぅー?あとべ訳して?」

「無理だ」

「というのは冗談で、ようこそ沖縄へ!これからイルカショーを始めますので、どうぞこちらに着いてきてくださーい!」



ざわめきが起こったのも一瞬で、女性は人懐っこい笑顔を浮かべながら種明かしをした。どうやらほんの冗談だったらしく、生徒達は安心したように元気良く返事をする。



「イルカショーだって!楽しみだね」

「あぁ、そうだな」



***



「こんなの聞いてないCー!」



イルカショーの会場から出るなり叫んだジローに、俺達は容赦なく爆笑を浴びせる。というのも、俺達は最初の方に会場に入ったおかげで最前列でショーを見れたんだが、イルカの水しぶきが何故かジローだけに直撃したのだ。いやぁあれは傑作だった。一応ハンカチを渡してやってる朝倉もちゃっかり口元は歪んでいて、ジローのふわふわした頭はぺしゃんこに潰れている。



「特に宍戸とがっくん笑い過ぎ!」

「いやだってお前それやべぇよ!あーー笑いとまんねぇ!」

「係員もここまで濡れるのは珍しいって言ってたぜ」



俺がそう言えばジローはすかさず「そりゃそうでしょ!」と反論する。開場前のアナウンスで、確かに最前列は濡れる事があるから注意しろとは言っていたが、それがこんなんになるとは係員も予想出来てなかっただろう。つーか出来てたらカッパの貸し出しくらいあるだろうしな。



「お前らいつまで笑ってんだ。そろそろ行くぞ」

「そういう跡部、自分も口元ヒクついてんで」

「もぉーー!」



結局、俺達の笑いが収まったのはそれから随分後の事だった。ようやくジローの髪も乾いて来た頃にはフェリーでの帰路も中盤に差し掛かっていて、疲れからか周りは寝始める奴が続出している。



「はぁ、凄い充実してたせいかあっという間だったよ」

「流石に疲れた顔してんぞ」

「旅行はそういうものでしょ!」



たまたま隣に座っていた朝倉は、そう言いながら持っていたカメラのデータを俺に見せて来た。なんでも水中にも対応してるとかで、色とりどりの魚が悠々と画面で泳いでいる。



「宍戸君ももっと泳げば良かったのに。ほとんど陸にいなかった?」

「…まぁ楽しめたからいいわ、俺は」

「なら良かったけど」



まさかあんな理由を本人の前で口に出せるはずがない。



「明日はもっと楽しもうね」

「あぁ。朝倉にとっては夕食だって大事なイベントだろ」

「ソーキソバ3杯も食べる女で悪かったですね!」

「冗談だっつーの」



そんな風に話していた朝倉も、段々と眠気が襲って来たのかしばらくすると目を閉じ寝る体勢に入った。俺の肩に頭を預けて来た時は若干動揺したが、次第に肩の力も抜け改めて今日1日を振り返る。



「…化け物みてぇな顔してんなよ」

「死ね宍戸」



そこでふと目が合った跡部は、行きと同じく酔いで顔色がとんでもねぇ事になっていて、その暴言に言い返す事すら出来なかった。その顔絶対朝倉に見せねぇ方がいいぞ。
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