「朝倉さんは3年A組になります。私は担任の近藤よ、よろしくね」

「こちらこそよろしくお願いします」

「じゃ、俺は行くぜ」

「うん、ありがと」



場所は変わり、職員室。学校生活の説明その他諸々を受けて、そして最後に担任紹介が終わったところで優兄は帰って行った。その後姿を見送りドアが完全に閉まった瞬間、急に近藤先生は興奮した様子で私に話しかけてきた。



「朝倉さん!従兄弟さんカッコイイわねー!」



内容は予想通り優兄の事で(ずっと瞳キラキラしてたしね)、先生もお若いからなぁ、とおばさんくさい考えが頭に浮かぶ。語尾にハートをつけてはしゃぐ先生を見て乾いた笑いしか返せない私なんかより、多分先生の方が数倍はじけてるんじゃないかと思う。確かに優兄はスタイルも顔も良いし、私も普通に格好良いと思うけれど、そこは慣れって怖いってことで。仕事柄優兄くらいの人はウジャウジャいる上に(何か優兄ごめん)、何よりも昔からずっと一緒だし今更そういう意識は持てないのが現実だ。



「さ、行きましょう」

「はい」



1人でそんなくだらない考え事をしてたら、どうやらもう行く時間になったみたいだ。私は先生の後ろに続き、職員室を後にした。

さて、どんな新生活が待ってるのかなぁ。



***



「ねぇねぇあとべっ、今日転入生来るんだってー!」



HR前でざわついている教室。各々が友達と話したり眠りに入ったりと自由な空間を過ごしている中、芥川は意気揚々と後ろの席の跡部に話しかけた。それに対し彼は若干面倒臭そうな視線を寄越し、口を開く。



「この微妙な時期にか」

「うん、だから皆気になってるみたいだC」



芥川が出した話題は転入生、すなわち泉の事だった。しかし楽しそうに話す彼と違い跡部はさほど興味がないのか、一言返事をしただけで会話を終わらせた。

その為跡部は、HRが始まり近藤が「朝倉さん入って」と言ってもそっちには目もくれず、ただ外を眺めてた。オマケに、周囲から聞こえてくるのは地味だね、ていうかスカート長くない?等の否定的な声ばかり。余計見る気を無くした跡部はそのまま外を眺め続けた。



「超可愛Eー!」

「…あ?」



しかし、その行動は芥川のせいで遮られる事となった。



***



「じゃあ、少し待っててね」

「はい」



言われた通り教室の前で先生に呼ばれるのを待っていると、微かな緊張が胸に押し寄せてくるのを感じた。まぁでも、期待や不安はそりゃ勿論あるけど何せこの容姿だ。どうせ数日、否、数時間も経てば平凡な日々を送れる。

と、私はこの時思っていた。



「朝倉さん入って」

「はい」



一度深呼吸してから扉を開け中に入り、先生の隣に立つ。とりあえず教室中を見渡してみるけど、皆つまらなさそうな顔を浮かべていて私に興味を持ってる人は到底いない。よしよし、これでいいんだ。



「超可愛Eー!」



だけど、いざ自己紹介と言う時に1人の男の子が急に立ち上がって素っ頓狂な事を叫び出した。男の子が叫んだ瞬間周囲からは驚愕の叫び、どよめきが起こり、同時に女子からは嫉妬の視線を浴びる羽目に(き、恐怖)。そんな予想外の展開に私は焦り、もう一度教室中を見渡した。

そうした事で発見したのが、驚愕どころか何の興味も示していない1人の男の子だった。その態度にもそうだけど、何よりも日本人離れした綺麗な青目に無意識のうちに吸い込まれる。そんな私を見兼ねた先生が軽く顔を覗き込んできたので、急いで視線を外して自己紹介を始める。



「朝倉泉です。よ、よろしくお願いします」

「好きなタイプは!?」

「ジロー」



一変した雰囲気に圧倒されつつそれだけを言えば、またジローって人が間髪いれずに質問してきた。やっぱり好奇心旺盛だなぁ、と彼を見ながら苦笑する。で、そのジローって人を呆れた声で名前を呼んで止めたのが、さっきの綺麗な青目の人だ。そうそう、お願いだから大人しくさせといて下さい。



「芥川君静かに!じゃあ朝倉さんは跡部君の隣ね。跡部君手挙げて」



近藤先生がそう言った途端耳に入ったのは、さっきとは比べものにならないくらいの数々の悲鳴だった。本当に、文字通り悲しく鳴いている。しかもそれに加えて嫉妬の視線は格段に強くなった。目で殺されるってこういう事を言うのかな…。

ちなみに跡部君というのは、これまたさっきの綺麗な青目の人だ。確かによく見れば見るほど凄く整った顔をしているし、女の子達が騒ぐのも無理はないと思うけど…たった今此処に来たばかりの私がこんな仕打ちを受けるのは、我ながら不憫だなぁ。

そんな事を考えつつ、私は重い足取りで跡部君とやらの隣の席に座った。



「あとべズルEー!」



どうやら前の席はさっきから騒いでる男の子、ジローとやらのようだ。私にこんな事言われるのは癪だろうけど、ツイてなさすぎる、自分。



「よろしく」

「あ、うん、こちらこそ」



急に放たれた挨拶に戸惑いつつそう返せば、跡部君はすぐに先生の話を聞く体勢に入った。反してジロー君からはキラキラした眼差しを向けられてるけど、反応のしようがないから苦笑だけしておく。多分、この時からもう既に、私の平凡という名の歯車は狂い始めていたのかもしれない。
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