景吾の馬鹿アホ俺様分からず屋。思いつく限りの愚痴を心の中で吐き出してみるけど、本当は自分が1番馬鹿だって事ぐらいいい加減自覚してる。

今まで甘え過ぎていたのかもしれない。いつも誰よりも傍に居てくれて、受け止めてくれて、悪く言えば景吾なら何でも許してくれると思っていた。でも、思えば誰よりも駄目な事は駄目だと注意してくれていたのも景吾なのに、私はそれをまともに聞いていなかった。



「朝倉?」



最悪だ。自己嫌悪の塊だ。考えれば考える程ドツボにハマッて行って、滲み出て来た涙を誰にも見られないように近くの空き教室に勢いで入る。すると、そのすぐ後に聞き覚えのある声が私の名前を呼んだ。



「宍戸、君」

「え、ど、どうした?」



それまでドアから顔を出していた宍戸君は、私の顔を見るなり慌てて教室内に入って来た。同時に授業開始のチャイムも鳴り、手に化学の教科書があるのを見て移動教室の途中だったんだなと察する。サボらせてしまってるこの状況はかなり申し訳ないけど、その事を謝る余裕は今の私には無かった。



「朝倉がやたら走ってると思ったから着いて来たんだけど、まさか泣いてるとは思わなかったぜ」

「ごめ、ん」

「いや、むしろなんか野暮な事しちまって悪ィ」



一向に泣き止まない私を見て宍戸君は困ったように頭を掻いた後、そのまま隣に勢いよく胡坐をかいた。持っていた教科書で頭をわしゃわしゃとやられ、不器用な優しさにまた涙が止まらなくなる。



「話して楽になるんなら聞くぜ」

「景吾と、喧嘩した」

「えっお前らが?マジかよ。初めてだよな?」

「うん、もう分かんない」



突き放すように言われた言葉と、その時の景吾の冷たい顔が何度も頭の中をよぎって、なんで景吾が相手だとこんなにも悲しいのか自分でもごちゃごちゃになる。景吾にだけは、景吾と離れるのだけは何が何でも嫌だった。



「あいつが何言ったのか知らねぇけど、とりあえず仲直りしたいんだろ?」

「うん、今すぐに」

「大丈夫だ、あいつも同じ事思ってっから」

「でも私景吾に酷い事言った」

「反省してる奴を切り捨てる程奴は冷たくねぇよ。朝倉だって知ってるだろ」

「うん、景吾は凄い優しい、誰よりも優しい」

「つーかお前らもう自分達で話せよ」



それまで慰めてくれてた宍戸君が急にそう言ったものだから、何の事かと内心不思議に思いながらそっと顔を上げる。



「…んん!?」



すると、なんとすぐ傍に景吾の姿が目に入った。どういう事だろうこれ。



***



「もう泣かすなよ」



擦れ違いざまに囁かれた言葉に、1番やりたくねぇ事をやっちまったと今更罪悪感が押し寄せる。それを気付かせてくれた宍戸には一応軽く頭を下げておいて、俺は目を真っ赤に腫らしている泉の元へ歩み寄った。更に気を利かせたのかバタン、とドアが閉まる音もして、俺達の間には沈黙が流れる。



「何で此処、分かったの」

「もう授業始まってんだぞ。静かな廊下に泣き声は響く」

「え、そんなに?」

「教室の前まで来たら聞こえる」



それを聞いて泉は声を必死に押し殺す為にか、両手で自分の口をグッと抑え付け始めた。しかし意図とは真逆に目からはどんどん涙が溢れて来て、立てている膝に顔を押し付ける。

こいつに対しては過保護になっちまう事くらい自他共に認めていた。しかし最近では更にそれに磨きがかかって来て、もう冷静を装うには手遅れな所まで来ている。

気になって仕方なかった。仁王と何処に行って何を話したのか、どんな表情を奴に見せたのか、挙句の果てには自分の知らない所で2人で会っていた事実にさえ苛立ちが募った。そして同時に、そんな自分に嫌気が差した。



「悪かった。俺のせいだ」



言わずもがな俺は自分に自信がある。むしろ自信しかねぇ。自分の決めた事に間違いは無いし、それが最善な事も知っている。なのに泉に対してはそんな自分の中の常識がまるで通じない。



「嫌いって言ってごめん、本当はそんな事全然無いんだよ」

「あぁ、知ってる」

「景吾が離れるのが1番嫌だよ」



こっちが不安定な時にそう言われれば衝動的になるのも仕方ない話で、気が付けば俺は泉を自分の胸の中に収めていた。しばらく子供の様に泣いた後は気の抜けた笑顔を向けて来て、コロコロ変わる表情にまたなんとも言えない気持ちが押し寄せてくる。



「仲直りだね」

「だな」



どうやら、この生温い関係もそろそろ終わらせなきゃいけないらしい。そんな予感を漠然と感じながら、ただひたすらに腕の力を強めた。
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