「…な、何?」



翌朝。普段通りに学校に登校し教室に入ると、その瞬間クラスメイトの視線は一気に泉に注がれた。自分の知名度にはいい加減自覚を持ってるが、この視線の意味は理解出来ず思わずドアの前で固まる。



「泉」

「香月おはよう、ねぇ」



そこで近付いて来た香月に、耳打ちで何があったのか聞こうとすると、



「朝倉さん!」



1人の女子が何やら興奮した様子話しかけて来た。その気迫と声のボリュームに更に泉は驚くが、彼女のテンションは収まりそうにない。



「朝倉さんって、あの立海の仁王君と付き合ってるの!?」



そしてその女子がそう言うと、それまで静かだった教室は冷やかすように一気に沸いた。突然の事に一瞬思考が停止したが、すぐに昨日の事だと気付き困ったように頭を掻く。

 そうだ、もうMiuイコール私なんだ。

事の重大さを今更思い知り、どうすればいいのか分からずひたすら頭を悩ませる。勿論そんな事実はないのだが、自分の相変わらずの不注意さに嫌気が差したのか表情は曇る。



「私昨日見ちゃったんだー!もう2人共お似合いだったよーっていうかMiuちゃん超可愛かった!目の前にいる事が信じられないもん!」

「ありがとう、でも付き合ってないよ。ただの友達」



正直言われて気持ちの良い言葉では無いにせよ、女子にも悪気は無いので下手に言い返す事も出来ない。有名税ってこういう事なのかな、と漠然な考えが浮かぶ。



「えーそうなの?ちょっと残念ー」

「よっしゃ!じゃあ俺もまだいけるぜ!」

「お前じゃ無理だっつーの」



一度言って分かってくれたのがせめてもの幸いだった。真実を知った事により興味を無くしたクラスメイトは、またいつものように各々雑談を始め意識も泉から逸れた。そんな彼らに彼女は一度小さく溜息を吐き、ようやく自席に着席する。



「まるでパパラッチね。大丈夫?」

「うーん…何とも言えない」

「迷惑な話だC」



それからはいつも通り、と思ったが、そこまで話して泉は1つの異変に気が付いた。



「景吾どうしたの?」



跡部が先程から一言も話し出さないのはおろか、自分と目すら合わせようとしない。



「そういえばあとべ、さっきからずっと不機嫌だよね」

「うるせぇ、余計な事喋るな」

「え、どうしたのあんた。もしかして八つ当たり?」



訳が分からず会話だけを聞いていると、跡部はようやく目を合わせたかと思えばその視線はいつもの何倍も冷たかった。



「俺は今までお前に何回言ってきた?」

「え、っと」

「お前に注意力っつーもんはねぇのか」



突然の事に、言われた張本人である泉だけではなく、芥川と香月も目を丸くさせる。



「いい加減自覚しろ。お前がMiuって事はもう全員知ってるんだぞ」

「うん、ごめんなさい」

「バレてもいいと思ってやってんなら別だけどな」

「…どうしてそんな事言うの?」



自分に非があるのは重々分かっていたが、流石にそこまで棘のある言われ方をするのは我慢がならない。なので泉が少し反抗した態度をとると、それが火に油を注いだのか跡部の声もまた荒くなった。



「そうとしか思えねぇだろ?他に理由があんのかよ」

「そんなの景吾が1番よく知ってるでしょ?」

「お前の事なんか何も知らねぇよ!」

「あとべ!」

「ちょっと落ち着いて、また注目されてるから」



2人の仲裁により言い合いはそこで終わったが、お互いまだ不満があるのは目に見えて分かる。そうしてその雰囲気に耐えかねた泉は、走りこそはしないものの足早に教室を後にした。



「あとべ、どうしたの?」

「どうもしねぇ」

「どうもしなくないでしょ。じゃなきゃあんたが泉に対してあんな言い方するはずがないじゃん」



その問いに、跡部は彼らしからぬはっきりとしない声で何やら話し始めたが、実際の所理由は分かり切っている。



「泉が甘かったのも悪いけど、嫉妬を勢い任せにぶつけてどうすんの。とりあえず私あの子の所行ってくるから、先生に適当に理由付けておいて」



まさに図星だった。気持ちが分かる分2人も責める事は出来ないので、それ以上は何も言わずに香月は教室を後にする。残った芥川は払われる事覚悟で跡部の肩に手を置いたが、意外にもそれは拒まれなかった。相当堪えているのだろう、と察する。



「大事すぎてどうしていいかわかんないんだね。でも、仲直りしなきゃ駄目だよ。俺泉もあとべも大好きだし、2人が喧嘩なんて絶対やだからね」

「…そうか」



あーあ、これちょっと立ち直るの時間かかるC。なんて客観視しているが、跡部と同じように芥川も、先程見せた泉の泣きそうな表情が頭からこびりついて離れなかった。
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