時は過ぎ、放課後。



「疲れたー…」

「あんな馬鹿真面目に質問責めに答えてればね」

「答えられる範囲内で、だけど」



あれから泉の周りにはファンが殺到して、しばらく女子にもみくちゃにされていた。断りきれない性格だからサインとかひとつひとつ丁寧に書いてたし、容赦なく投げかけられてくる質問にも律儀に答えていたし、そりゃ疲れるに決まってる。



「誤解は解けてたみたいだし良かったね」

「うん。何でこんな早く解けたのかな?」

「普段の行いと、後は滝の力かな」

「成程」



滝がありもしない噂を流した奴らに何をしたかは、この前じっくりと聞きだしたのでもう掘り返さない。ていうか掘り返したくも無いわ、あんな下手なホラーより怖いもの。泉もそれを思い出してか若干苦笑ぎみだけど、その後すぐにまたふにゃりとした嬉しそうなものに変わった。



「そういえば、今日って西野さん来てた?」



でもそこで不意に出された名前には、次は私が眉を顰める。あの女のクラスの人に聞いてみたけど、今日は学校に来てなかったらしい。まぁ、これから先も来るとは思えない。



「1回周りにボコボコにされればいいのにね」

「かーづーき」

「冗談」



本当は半分本気だけど、お人好しな泉はそういうのをとことん嫌うから仕方なく口を閉じる。ちょっとは悪くなれないものかねぇ、と思いつつ、お互い玄関にて上靴から外靴に履き替える。



「私も西野さんと和解しようなんて思ってないし、このまま記憶が薄れていけばそれでいいよ」



とはいえ、流石の泉も全てを許すという訳では無い。冷たく言い放たれたそれには「そっか」とだけ相槌を打ち、その暗い話題を掻き消すように私達は色んな話をした。

記憶から消すのは無理でも、せめて薄れて欲しい。これが、泉にとってはこれ以上無いくらいの突き放し方なんだろう。



***



「ん?」



香月と別れてスーパーに寄ってから家に着くと、郵便受けには1通の真っ白な封筒が入っていた。宛名も何も書かれていないそれに不安を感じつつも、恐る恐るその場で開けていく。



貴方には適わない。全てにおいて適わない。そんな貴方に嫉妬したのかもしれない。でも、私は謝らない。自分の思うままにやった行動だから後悔なんてしない。もう私が貴方の前に現れる事はないから、どうぞ仲良くお幸せに。



それが西野さんからのものだと理解するのに、そう時間はかからなかった。たった数行の文面を何度か読み返してから、丁寧に封筒に仕舞い直して鞄にいれる。

香月に言った通り、和解する気持ちは私もこれっぽっちない。最後の最後までお互いが望んでいた会話は出来なかったけど、私にも彼女にも譲れないものがある。そこをどう突いたってもうしょうがないし、忘れるしかないんだ。

気持ちの良い終わり方には出来なかった。全てが円満に、なんていうのとはかけ離れている。でも、もしかしたらこの手紙が唯一の救いなのかもしれない。そう自分に言い聞かせる事で気持ちを切り替え、私は何事も無かったように晩御飯を作り始めた。
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