「へえ、景吾もそんな事言うんだね」

「やっぱり優しいよね。それだけで凄い安心しちゃったもん」

「流石ねぇ」



景吾と入れ替わりで来てくれた香月にさっきの話の内容を伝えると、香月はなんとなく楽しそうな顔で相槌を打って来た。景吾が優しいのがそんなに面白いのかなと思いつつも、話は続けられそれを問いかけるタイミングは無くなる。



「それで、来週登校なの?」

「多分そうなると思う」

「じゃあ朝から一緒に行こっか。どっかで待ち合わせして」

「ありがとうね、わざわざ」

「当たり前じゃない」

「西野さんは、来るのかな」



そこでずっと気になっていた事をぽつりと呟いてみると、香月はわかりやすいくらいに顔を歪めて嫌悪感を露わにした。って他人事のように言ってるけど、多分自分の顔もあまり良い表情では無いと思う。



「どの面引っさげて来るのかは興味ある。まぁ来ない確率も高いけどね」



なんでも私が気絶してる間に結構なお灸を据えられたらしいから、確かに私が彼女の立場だったらもう学校には来れない。あの場にはいなかったハギも学校で色々やったって聞いたし…詳しくは怖いから聞いてないけど。でも、今更何も期待してないものの、最後に一言くらいあってくれてもいいのにと思ってしまう自分は貪欲なのかなぁ。

そんな思考を見透かすように香月は私の名前を強く呼ぶと、肩に手を乗せてゆっくりと微笑んだ。



「これからきっと学校で色々あると思う。でも、何度も言うように私達はずっと傍にいるからね」

「…うん」



頼もしいそれにすうっと心が暖かくなる。大丈夫、この人達さえいれば、なんにも怖くない。そんな事を大真面目に言えてしまうくらい、皆は暖かい。



***



「お疲れさま泉。何かあったでしょ?」



仕事が終わった直後に北野さんにそう言われて、気持ちはもう晴れてるのにどうしてバレたんだろう?と首を傾げていると、人差し指でまぶたの辺りをとんとん、と叩かれた。あれからアイクリームやホットタオルで頑張って腫れを引こうと試みたものの、どうやら努力が足りなかったらしい。ついつい苦笑が漏れる。



「まぁ、気持ちは晴れてるようだからそんな心配はしてないけどね」

「はい、もう大丈夫です。でもなんていうか、学校にバレちゃったんですよね」



主語は出していないもののそれだけで悟ってくれたのか、北野さんは一瞬驚いて目を見開いたものの、またいつものように綺麗な笑顔を向けてくれた。



「バレたもんは仕方ないでしょ。その調子じゃ特別何か困ってる訳じゃなさそうだし、卒業までちゃんと堪能しなさい」

「ありがとうございます」



背中にポン、と置かれた手がまた心地良い。だからそれに甘えてちょっと抱き着いてみると、北野さんは動物にするようにわしゃわしゃと頭を撫でてくれた。色んな人が色んな勇気をくれるこの環境が心底大好きだなと、今改めて実感する。

学校に行くのが全然怖くないといえばそれは嘘になる。でも元は自分が蒔いた種だ。いくらバラされてしまった形とはいえ、隠していたのは事実だしそこはなんの言い訳も出来ない。批判も皮肉もあるだろうけど、その分理解してくれる人も絶対にいる。

もう1回、頑張ろう。
 4/4 

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