「で、何で私があんたといる訳?」

「たまにはええじゃろ」



解散した後、泉の事は景吾に任せたから私はそのまま帰路に着く予定だった。景吾が行ってからものの数分で私達の迎えが到着し、バスは氷帝用と立海用で計2台。勿論当たり前に氷帝のバスに乗ろうとした矢先、不意に誰かが私の腕を引っ張りそれを憚った。



「お前さんはこっちに乗りんしゃい」

「は、え?なんで?」

「話したい事がある。駅の近くのカフェでも行くぜよ」

「…奢りなら」




仁王とは大して話した事もなかったから正直驚いたけど、冗談っぽく言ってるように聞こえて目は本気だったから、仕方なくその誘いに乗る事にして今に至る。



「で、詳細を教えて貰おうかの」

「こういう話はおたくの部長やら参謀やらが適役だと思ってたけど」

「後で俺から報告するきに」



場所はさっき仁王が言った通りカフェで、他の奴らは私達の雰囲気に気付いたのか特に着いてきたりはしなかった。無駄に空気が読めるというか。



「長くなるけど、連れ出したのはあんたなんだからね。最後まで聞きなさいよ」

「当たり前じゃ」



それを合図に私は、泉の正体が学校中にバレた事、バラした人物の事、そしてここまで大事になった経緯を全部話した。それも、仁王が望んだからかなり詳しめにだ。



「まさか合宿の時赤也に絡んだ奴らだったとはのぅ」

「ほんと世界って狭いわ」



話し終えて一息吐いた後、流石の仁王も予想外だったのかその目は若干困惑している。とそこで私は小腹が空いたから、最初約束した通り今日はこいつの奢りなので容赦なくサンドウィッチを頼む。



「これから泉と、さっきの西野っちゅー奴はどうなると?」

「今回あいつがやった事はもう犯罪レベルだし、学校に居れる訳ないでしょ。さっき学校に残ってる滝から連絡来たけど、やっぱりありもしない噂を流したのも西野だったみたいだし。これから調べれば色々ボロが出て来るんじゃない」



最初はなんで滝がいないのか気になったけど、あいつが学校に居残った理由はそこにあったみたいだ。傍観者と自称しているだけあって周りに目を向けるのが早く、それが今回仇となった奴はいっぱいいるだろう。



「人間はコロコロ意見が変わる上に流されやすいからのう。誰かがやり始めたら止まらんじゃろな」

「そういう事」

「だが、泉はえぇんか?」

「…そこなのよね」



そう、問題はそこだ。いくら私達が周りの誤解を解いた所で、認識は「地味な朝倉泉」から「モデルのMiu」に変わった。故に、居心地は今までよりも悪くなるし、いくら誤解を解いたと言っても何も言われなくなるわけではない。もしそうなった場合、泉は氷帝にいる事を望まなくなるかもしれない。



「周りからの気遣いや敬遠、それに泉が耐えられるかの」

「我慢強い性格だけど、自分が周りに影響を及ぼしてるって自覚した時点で罪悪感でいっぱいになると思う」

「…結局自分より他人か」

「それが良くもあり悪くもあるのよ。無理しすぎるから、私達が気付いてあげなきゃいけない。器用に見えて不器用なんだもの」



そこまで話すと、私と仁王の間には沈黙が降りかかってきた。



「結局、後は泉次第じゃな」

「それと景吾ね」

「やっぱり跡部は凄い。妬けるのぅ」

「あいつは何ていうか別格だから。泉が振り向いてるかは知らないけど」

「お前さんでもわからなか?」

「だって、恋をした泉を見た事ないんだもの」



そう言えば仁王は成程、と言って頷き、外に目をやった。だから私もつられるようにして外を見るともう日は落ちていて、それを合図にサンドウィッチを食べてから私達は帰路に着いた。

 頼んだよ、景吾。

1人になった帰り道でそんな事を想う。今の泉を支えられるのは、悔しいけどあいつしかいないのだ。
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