そばにいて

居心地が良かった。優しい感じがした。安心感があった。



「泉!」



目が覚めると、見慣れた天井が目に入った。起きた瞬間聞こえた声は酷く落ち着くもので、顔を見なくても一瞬で誰かわかった。



「怪我、痛まねぇか?」

「手当てしてくれたんだね、ありがとう」



腕を見ると湿布やら絆創膏やらが貼られてて、改めて実感するとに確かにちょっと痛む。でもこれくらい大丈夫だ。話を聞けば鍵は優兄に開けて貰ったらしく、当の本人は仕事があるからとついさっき帰ったらしい。一通りそんな経緯を話し終え、そこで私と景吾の会話は一度途絶える。



「ありがとう」

「お前が無事なら」

「本当に、ありがとう」



全てが終わったと実感した瞬間、とてつもない安堵と共にあの時の恐怖がフラッシュバックするように蘇って来た。驚いて顔を覗き込んでくる景吾に、今は何の気遣いも出来ない。



「皆に頼ってばっかりじゃ駄目だから自分でも頑張らなきゃって思ったのに、結局他力本願で、特に景吾にはいっつも甘えっぱなしで、私何も皆に返せてない」



ポロポロと出てくる涙を止める術は知らない。一度話し出すと自責の念が溢れ出て来て、それからも私はひたすらに謝り続けた。



「いいから黙ってろ」



でもそんな時に思いきり抱き寄せられて、いつもの優しい感じじゃなく、精一杯力がこもった抱擁に一瞬息が詰まる。少し痛いくらいのそれが、今は逆に心地よかった。

それからはまるで子供の様にわんわん泣いた。時々言葉をかけてくれる景吾の口調はやっぱり優しくて、また甘えてしまってると思いつつもこの腕から離れたくない自分がいる。景吾もそれを充分分かってるのか、ずっと私の傍に居てくれた。



***



存分に泣いて目を腫らした後、泉は倒れるように再び眠った。と言ってもさっきあれだけ寝たのだから直に起きるだろう。

時刻は21時。泉を家に連れ込んだのは15時過ぎだから、結構長い間此処に居る事になる。だが、起きた時にこいつを1人にしておくのは今の状態からしてあまりにも心配すぎる。



「おやすみ」



だから俺はそう小さく呟いて、小さな泉の手を握りながら同じように眠りについた。
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